集められたデータを解析することで、感染をうつしたひととうつされたひとがどのような関係なのか、どのような環境だと大規模なクラスターになりやすいのか、感染者と接触をしてからどのくらいの時間がたつとあらたに感染力をもつようになるのか、どのくらいで症状が出てくるのかといったことが明らかになっていった。

症状が現れる前から感染力をもつ
多量のウイルスが排出

 これらの科学的事実をもとに、さまざまな対策が考えられた。まだ治療薬もワクチンもなかった段階において、流行を制御するにはひとびとに訴えかけて考え方や行動を変えていくことが重要になる。パンデミックがはじまった当初は、症状のあるひとだけがマスクをすればよいというのが世界的に共有された考え方だった。

 これは、2003年に流行したSARSコロナウイルスが新型コロナウイルスに比較的近縁であり、SARSコロナウイルスの場合は「感染後にしばらく時間がたって症状が出てきてからウイルスが多量に排出されるようになる」ということがわかっていたからだ。

 ところが、僕たちが新型コロナウイルス感染症のデータを解析してみると、「感染者の症状が出る前に、その感染者と一緒に食事をしたひとがウイルスをうつされていた」といった事例がいくつも見つかった。

 そのため、「マスクを着用しましょう。それはあなたを感染から守るという意味もありますが、それだけではありません。いまは何も症状がないあなたが実は感染していて、明日から熱が出るかもしれない、咳をするかもしれない。そんなとき、いまは症状のないあなたでも、すでに口から出てくる飛沫にはウイルスが含まれているのです。だから、いま目の前にいるひとを守るために、感染をひろげないためにマスクを着用しましょう」という、症状の有無にかかわらずマスクを着用するユニバーサル・マスクという概念が広まっていった。

 また、数理モデルの専門家である西浦先生たちのチームが行ったデータ解析から、多くの感染者が発生している特定の場というのが見えてきた。さらなる解析によって、そのような場で感染が起こるのを抑えることが有効な対策になりそうだと見出された。