まず、直方体の容器を用意しました。このときは、100円ショップで見つけてきた長さ30cmのパスタケースを使いました。そして、上の飼育実験で使ったのと同じ、質の悪い餌を敷き詰めました。さらに、容器の片方の端にのみ、質の良い餌としてカブトムシマットを入れておきました。

 この容器の中央付近に幼虫を入れ、この幼虫がカブトムシマットを見つけられるかを観察しました。すると、潜るやいなや、多くの個体が、カブトムシマットの方へ進み始めました。

 30分経たった頃にはほぼすべての個体がカブトムシマットのそばから発見されました。幼虫は、少なくとも数十cmほど離れた場所から、質の良い餌がある場所をたやすく見つけることができるのです。

 では、幼虫はどのようにして質の良い餌を見つけているのでしょうか。視覚的な情報は土の中では使えないはずなので、化学的な情報、つまり匂いを手がかりにしていると考えられます。

 幼虫にとって“良い餌”というのは、微生物が豊富な発酵の進んだ餌を意味します。微生物も人と同じように、呼吸によって二酸化炭素を排出します(ただし、酸素が十分にある条件に限ります)。

 二酸化炭素に誘引される動物としては蚊が有名です。蚊は二酸化炭素を手がかりに、吸血する獲物を探します。同じように、カブトムシの幼虫も、微生物の豊富な餌を見つけ出すために、二酸化炭素を使うかもしれません。

書影『カブトムシの謎をとく』『カブトムシの謎をとく』(筑摩書房)
小島 渉 著

 このことを確かめるため、簡単な方法で実験してみました。飼育容器に入った幼虫とストローを用意し、ストローを使って土の中に息を吹き込んでみました。

 すると、あっという間に幼虫がそこを目指して集まってきたのです。呼気に含まれる二酸化炭素に反応したとしか考えられません。

 その後、呼気の代わりに、純粋な二酸化炭素を使って実験したときも、同じように幼虫が集まってきました。

 二酸化炭素の量を変えながら実験を繰り返したところ、かなり少ない量の二酸化炭素でも十分に幼虫は反応することが分かりました。二酸化炭素の“匂い”を感知できない私たち人間からすると、なんだか不思議な感じがします。