さまざまな「環境の変化」により、多くの人が将来への不安を抱え、「大きなストレス」を感じている。ストレスを溜め込みすぎると、体調を崩したり、うつなどのメンタル疾患に陥ってしまう。そんな中、このコロナ禍に出版した著書『ストレスフリー超大全』では、著者の精神科医・樺沢紫苑氏は、ストレスフリーに生きる方法を「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」で紹介している。「アドバイスを聞いてラクになった!」「今すべきことがわかった!」と、YouTubeでも大反響を集める樺沢氏。そのストレスフリーの本質に迫る。(初出:2023年1月4日)
「生きる意味」はそもそもあるのか
精神科医をやっていると、「死にたいです」と語る患者さんが多くいて、それに対する答えがないかを常に考えています。
「生きる意味」を与えるにはどうすればいいのか、勉強と思索を続けてきました。
「なんで生きるかというと、死ねねえからだよ。」―立川談志(落語家)
これは、「生きる意味」を自分なりに模索する中で、私が出会った言葉です。
昔、NHKで放送されていた10代の若者の討論番組「真剣10代しゃべり場」に、落語家の立川談志さんが出演していました。
ある若者から、「人は何を求めて生きるんだろう?」と、生きる意味を問われ、談志さんは、「なんで生きるかというと、死ねねえからだよ。死なないから生きているとしか言いようがない」と言い放ちました。
私は、この言葉を聞いてハッとしました。私が考えていた漠然とした「生きる意味」を、見事に言い表していたからです。今でも鮮烈に残っています。
「哲学」が教えてくれること
私なりに解釈をすると、人間は、「生きる意味」を持って生まれてくるわけではなく、自分の意識が目覚めた状態で「生きている」と実感するだけ。
つまり、「生きる意味」というものは存在しない、ということだと思いました。
「生きている」とはどういうことかというと、単に「死んでいない」という状態のこと。
一見、ただのトンチのようですが、生きるとはそういうものだと思わされたのです。
自分が「生きている」という現実が先にあり、「生きる意味」「生きる理由」「生きる目的」は後から考えるもの。すべて後づけです。
だから、いろいろ悩み、思考した結果、「生きる意味が見つからない」というのは、実に正しい結論だと思います。
もともと存在しないものですから、見つかるはずがないのです。
そうすると、「生きる意味が見つからないので死にたい」という患者さんの言葉に従うと、「この世の人間はすべて死ななければいけない」という理論につながります。
どうみても正しいと思えません。
「人間は自分の存在意義(世界そのもの)を知ることはできない。」―カント(ドイツの哲学者)
近代哲学の祖と言われるカントが、「人間とは何か?」について長年考え続けた結論が、この言葉です。
自分の生きる本当の意味を自分で理解することはできない。つまり、生きる意味が見つからないのは、哲学的にも正解なのです。
「生きる意味なんかもともとないのだから、生きる意味が見つからないと苦悩する必要もないし、見つからないのは当然で、見つからないからといって自殺する必要はまったくない」というのが、ひとつの結論です。