そこにもJRAや南関東とは明らかに違う競馬があり、それを目にした経験は大きかったです。

 水沢競馬場はその後、二度ほど行きました。競馬のあと、水沢駅の近くに広がるローカルな賑わいも繁華街で飲むのも楽しいですが、予算に余裕があれば水沢から花巻温泉に移動して泊まるのもお勧めです。

ギャンブルは「割れない」
ひとりで遊び、喜び、悲しむ

 自宅の近くにある競技場に慣れ親しみ、コースや展開の特徴を覚えて的中回数を増やすのも重要だと思いますが、全国には自分の理解と特徴の違うレース場もあると知るためにも、全国を旅打ちする意義があるのだと思います。

 ちなみに水沢競馬場でもMくんは勝ち、私は負けて腐りました。彼に嫉妬して、失礼な言葉を投げつけたようにも思い、あとで自分を恥じました。彼に非はないのに人間関係に小さく亀裂が入った気分にもなりました。

 そういうことがあって、私は旅打ちはひとりで行ったほうがいいと思うようになりました。

 いや、旅に限らず日常の公営ギャンブルもできるだけ友人知人とは連れ添わず、ひとりで行ったほうが煩わしさがないと気づきました。

 ギャンブル場に二人で行った場合、二人とも同じように勝つことはまずありません。ひとりが勝ち、ひとりが負ける。

 すると負けた人間がひがむので、その場の雰囲気が険悪になります。

 負けた者は帰り道で「お前は儲かったんだから奢れ」とねだり、勝った者は「俺の金だろ」と突っぱねるか、しょうがなく奢ったとしても、たかられた不満が残り後味が悪くなります。

 最悪は二人とも大負けするケースで、帰り道で会話もなくなります。自分に手持ちの金が残っている場合「一杯飲んでいこう」と誘うことができますが、相手が無一文だと、ひとりで飲むわけにも、奢ってやるわけにもいきません。

 負けた金額にもよりますが、公営ギャンブルで勝てなかったあとの落ち込み具合は人それぞれで、金を失い激しく落胆している人間を第三者が気楽になぐさめられるものでもありません。酒を飲む気にもならない人もいるのです。

 ギャンブルは「割り勘」ができる遊びではありません。その場に一緒にいる友人と勝ち負けを均等に分け合うことはできません。複数の人間がいれば、誰かが得をして、誰かが損をします。そして彼らの感情に、大きな溝が生まれます。その溝はどうやっても埋めようがなく、友情にひびが入ることもあるでしょう。