派閥に低頭、無派閥は冷遇
自爆した岸田首相の政権運営

「国民の声が届かない」とは、2021年の自民党総裁選で、岸田首相が、当時の首相・菅義偉氏の政権運営を批判する文脈で使い始めた言葉だ。菅政権を打倒しようとした岸田首相は、総裁選を前にして「菅首相(当時)は、説明不足であり、発信が大事だった」と繰り返し発言した。

 総裁選に当選直後、自民党総裁としての最初のスピーチでも、花束と共にエールを送った菅氏を横に立たせて、「多くの国民が政治に声が届かない、政治が信じられないといった切実な声を上げていた。私は、我が国の民主主義の危機にあると強い危機感を感じ、我が身を顧みず、誰よりも早く総裁選に立候補を表明した」とぶち上げたのだ。

 同じ党内の人間に対して、どれだけひどい侮辱であったろうか。野党やメディアが書き立てるなら理解はできるが、勝負が決した後にもかかわらず、自分が追い出した相手に、お前には国民の声が届かないのだ、とぶった斬ったのである。岸田首相は、菅前首相にどれだけ無礼なことをしたか、理解できるだろうか。

「国民の声が届かない」というレッテルを、岸田氏は首相就任を経て「聞く力」という言葉に変え、繰り返し世論を煽(あお)ってきた。底意には、安倍・菅政権が国民の声が届かない政権だったという岸田氏の反省があったわけだ。

 岸田首相の政権運営は、明確であった。派閥の領袖にひたすら頭を下げ、意向を汲み、怒らせないように、敵にならないように細心の注意を図る一方で、無派閥議員は徹底的に冷遇してきた。

 派閥に力を与えていった岸田首相が、派閥の裏金問題で窮地に陥ったのは大きな皮肉であろう。自爆的に自分の派閥を解散したり、自らが先頭に立って派閥問題を解決しようというパフォーマンスを見せたものの、派閥は名前は消えたもののそのまま残っているし、自民党が裏金問題を今後起こさないと信じている有権者など、自民党の支持層も含めていないのではないか。