(2)認知の歪みがないか検証する

 ネガティブなひとり言に対して自問自答しながら深堀りする際に大いに参考になるのが「認知の歪み」という。

「心理学の認知行動療法のなかで明らかにされている『認知の歪み』は、人にはそれぞれ思考の癖があり、それによって対象を歪んで捉えてしまうというものです。例えば職場で『あの人は私のことが嫌いなんだろうな』とつぶやいたとします。私を嫌いだと思った理由が『挨拶を返してくれなかった』ということだとしましょう。挨拶を返してくれなかったのは、他の人と話をしていて注意が向かなかったこともあるでしょう。1回だけ挨拶を返してくれなかったという理由で一方的に決めつけるのは、認知の歪みのパターンの一つで『行き過ぎた一般化』によるものです」

 職場の人間関係で疲れてくるのは、こういったケースも原因のひとつとなる。ネガティブワードをつぶやいたときこそ、自分を振り返ってみることが大事だ。

通勤の移動中などスキマ時間に
「将来の夢や目標」をつぶやこう

(3) ひとり言を言うための「時間」と「空間」を設ける

 仕事中や大勢でいるときは、ひとり言は言えないだろう。ひとりでいる時間こそ、誰に気兼ねすることなく言うことができる。

「特に、寝る前は『今日も1日頑張った』『こんないいことがあった』などと、その日の出来事を振り返って自分を肯定すると、不安がなくなるとともに、1日の出来事が記憶にしっかり定着します。安心して寝付きがよくなるといった効果もあります。不安がなくなると睡眠の質が上がることが最近の研究でもわかっています。不安や悩みを抱えているときこそ、私はポジティブなひとり言を言うようにしています。『大丈夫、必ず良くなる』などと、一種のおまじないのようにつぶやくと、ぐっすり眠ることができて、翌日の目覚めもよくなります」

 スマホ動画やSNSを見ながら寝落ちするのではなく、あえてポジティブな言葉をつぶやくと睡眠の質が向上してくるという。そして、朝起きたら「気分が上がるひと言」を言い、鏡を見ながら成功をイメージする。通勤の移動中に「将来の夢や目標」をつぶやくようになれば、今ある目の前の仕事もはか
どってくるだろう。そうやって一つずつ壁をクリアしていき、目標に近づいていこう。

【Plofile 加藤俊徳】脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。「脳の学校」代表。1991年に現在700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。95年から01年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。加藤式脳画像診断法を用いて1万人以上を診断し、薬だけに頼らない脳番地トレーニング処方を行う。『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。

(ジャーナリスト 村田くみ)