欧米では主流の無痛分娩
日本ではなぜ少ない?
まず、批判している人たちが特に指摘しているのは、「おねだり」という言葉選びである。出産ではなく、他の手術であれば麻酔を希望することであれば「おねだり」とは言わない。痛みを伴う手術には麻酔が用いられるのが通常であるので「おねだり」する必要もない。なぜ出産だけ、無痛分娩を選ぶことが特別のように言われてしまうのか。
女性たちがここにこだわる理由の背景には、欧米に比べて日本では無痛分娩が普及していない状況がある。
出産は言うまでもなく激しい苦痛を伴うものだ。無痛分娩の普及率はアメリカでは7割、フランスでは8割と言われるほど、特に欧米での割合は高い。
一方、日本で無痛分娩を選ぶ人は全体の1割以下だ(※)。理由の一つとしてよく挙げられるのが、麻酔医との連携がしづらい医療システムと言われ、妊娠した人が無痛分娩を望んでも、そもそも受けられる病院が少ないという問題がある。
※2020年4月に発表された厚生労働省調査によれば、無痛分娩を選んだ人は8.6%。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/dl/02sisetu02.pdf
また、無痛分娩に医療保険が適用されることが多い欧米とは違い、日本では自己負担の場合が多い。このため、無痛分娩は贅沢であるとか、一部の高所得者しか選べないというイメージを持たれることも多い。
女性を苦しめる
「無痛分娩はわがまま」の風潮
さらに言えば、「産みの苦しみを知って初めて母親として一人前」といった昔ながらの精神論にいまだに苦しめられる人もいる。無痛分娩の普及率が低いからこのような精神論がいまだに幅を利かせているとも考えられるし、このような風潮があるから普及率が低いとも言える。
いずれにしても、無痛分娩を選ぶことを「わがまま」のように言う人がいるのは事実であり、このような風潮に違和感や不満を覚える女性は少なくない。今回の炎上でも、「もし男性が出産する社会だったら、とっくに無痛分娩が普及していただろう」といった内容の意見も見られた。付け加えると、「無痛分娩」といっても完全に無痛なわけではない。