ともかく、これから出産する人にとって、無痛分娩を選ぶか否かはセンシティブな問題である。本人が無痛分娩を希望しても、周囲の状況がそれを許さないことがある。出産する人の体の問題であるが、社会背景や慣習が、その選択を狭めている。

 実際に日本では男女の賃金格差があり、経済的に配偶者(パートナー)に頼らざるを得ない女性も少なくない。妻が夫に無痛分娩を「おねだり」しないといけない状況は実際にあり得るだろう。しかし、自分の身体的苦痛を緩和するために、相手の顔色を見ながらお伺いを立てなければいけない状況を「おねだり」とされてしまっては、問題の深刻さが覆い隠される。

違和感を増幅させてしまった
「旦那様」呼び

「旦那様」という言葉選びも、「おねだり」の卑屈さをブーストさせた。「ご主人」「旦那様」呼びは、女性の間でも使われるし、相手の配偶者を指す場合に「なんと呼べばいいかわからない」から「旦那様」を使う人も多い。

 ただし最近では、「ご主人」や「旦那様」は夫婦の中での上下関係を感じさせることから、「パートナーさん」や「お連れ合い」、あるいは「夫さん」を使う人もいる。今回の場合、文脈から「旦那様」がはらむ問題が際立ってしまった。

 近年、日本では海外に比べてアフターピル(緊急避妊薬)の手に入りづらさや、避妊方法の選択肢の少なさ、経口中絶薬の認可についてなどが話題になった。これらに関心を寄せるのは多くの場合、女性であり、男性はこのような状況に女性が疑問や不満を抱いているのを知らないことも多い。

 少子化が問題と言いながら、女性の身体的苦痛や悩みに耳を傾けない社会に対する不満が、今回の炎上には表れているように見えた。

 今回炎上したのは、好感度の高い「イケメン」俳優である。これが政治家の発言だとしても当然炎上していただろうが、このような発言は普段、好感を持って受け止められている人が「悪気なく」発したものであっても炎上するし、むしろその「悪気のなさ」が無関心の露呈であると受け止められる時代であるという点は、政治家や経営者が知っておくべき事実だろう。