書影『完璧じゃなくていい、勇気ある女になろう』『完璧じゃなくていい、勇気ある女になろう』(海と月社)
レシュマ・サウジャニ 著

 ヒラリーの強さ、立ち直るパワーに影響されたのかもしれない。怖くてたまらなかったことをするよう、大切な友だちが背中を押してくれたからかもしれない。とにかく、わたしはこのとき、物心がついてから初めて、かすかな希望を見出した。

 そしてついに、勇気を振り絞って父に話した。「仕事を辞めて選挙に立候補したい」。電話をするときはもう本当に怖くて、手が震えた。それでも、どうしても挑戦したかった。この気持ちを削がれたくもなかった。

 意外にも、父は「いい頃合いじゃないか!」と言ってくれた。あのときほど、父の娘であるのを誇りに思ったことはない。同時に、こんなことならもっと早く本心を打ち明ければよかったと自分を責めたくもなった。とにかく、長い時間をかけてようやく、自分の夢を追えば、父のアメリカンドリームを叶えることにもなると気づいたのだ。

 かつてのわたしと同じような過ちを犯した女性は、他にも大勢いる。

 たとえば美術史専攻の学生メリッサ。熱心なユダヤ教の信者である親の強い勧めで、当時つきあっていた、ユダヤ人の優しい(けれど退屈な)男性と22歳で結婚し、芸術家になるという夢を諦めた。そのまま流されるように日々を送り、立派な家に引っ越して、両親のミニチュア版のような社会生活を送った。それでもしばらくは、心をこめて夫に尽くす妻という役割を楽しんでいたが、やがて「これでいいの?」という思いが浮かんできた。

 そして25歳のある朝、目覚めて、まだ新しい家を見まわし、そこで営んでいる生活のことを考えて不意に思った。「ダメだ。わたしの物語を最後まで紡ぐのはここじゃない」。

 26歳の誕生日を迎えたときにはすでに離婚していて、薄給ながら画廊の受付として働き、ブルックリンにある質素なアパートメントで寝起きしていた。

 たしかに、完璧とは言えない生活だ。けれど彼女は、これまでになく幸せだった。“そうすべき”という期待を手放したおかげで。