なぜ「完全投球」の村上を
七回で降板させたのか?

 2023年11月28日に開催された「NPB AWARDS 2023」で、村上頌樹は見事にセ・リーグ史上初となるMVP(最優秀選手)と新人賞を同時受賞。村上がこの栄誉ある賞を獲得した大きな要因は4月12日の巨人戦にあった。

 この日、村上が今季初登板。そして、七回まで84球を投じ、打者21人からアウトを奪う“完全投球”だったが、岡田は八回一死の打席に代打原口文仁を送った。このまさかの代打起用に、東京ドームにはどよめきが起こった。

 この岡田の決断には村上への親心があったと私は考えている。七回まで巨人打線を完璧に抑えたという「成功体験」のままで終わらせたいという親心が、のちの村上の大躍進に結びついたのだ。この試合を振り返って、村上はこう語っている。

「抑えられたのが自信になり(その後の試合でも)ああいうふうに投げられれば、抑えられるということが分かった」

 岡田のような一流のリーダーは、そのメンバーの未来を見通したうえで采配を行使している。完全試合という大成功より成功体験の積み重ねを優先させた岡田のこの決断が、村上にMVPと新人王という大きなタイトルをプレゼントしたのだ。

京田の危険なプレーを
許さなかったわけは?

 2023年シーズン、あの冷静なはずの岡田が鬼のような形相で審判団に抗議したゲームがあった。それは8月18日に敵地横浜スタジアムで行われた横浜DeNAベイスターズ戦での猛抗議である。

 九回一死一塁で代打糸原健斗の4球目、熊谷が二盗を試みる。送球がやや一塁側に逸れて遊撃京田陽太と激突。

 一度はセーフと判定されたが、DeNAのリクエストで判定が覆る。責任審判が「二塁ベースで走者と野手が接触しているが、妨害とはいたしません。よってアウト」とコールすると、岡田はベンチから出てゆっくり審判に詰め寄り、ときには激しい口調で「走塁妨害」を強くアピール。しかし、岡田の抗議は認められず、試合も1─2で敗退し、後味の悪いゲームとなった。

「あれをOKとしたら、皆、あの練習をする。座り込んでボールを捕るよ」(試合後、岡田が語った言葉)

 しかし、岡田のこの抗議が日本プロ野球機構と12球団による実行委員会を動かし、たとえ不可抗力でも守備が走者に対して完全にベースをふさいだ場合は「ブロッキングベース」としてセーフとする判断基準の変更が決まった。

 岡田の「間違っていることは間違っている!」という強い信念が実行委員会を動かしたのだ。