指導者として成長するには
自身も「変わる勇気」が大切

 九重龍二さんの話に笑いながら、工藤公康さんはこう答えてくださいました。

「変わる勇気ですよね。自分が変われば、みんなも見え方が変わる。信頼関係も変わってきたり、コミュニケーションも変わってきたりします。

 コミュニケーションがうまく取れないっていうのは、ひょっとしたらどこか、壁じゃないですけど、自分に変われない要素が何かあるのかもしれませんね。

 こだわっちゃったりするんですかね、自分に。教えられたものや、体験したことだけで考えていると変われませんよね。学ぼうと思えば、教わることはいっぱいありますから。

 そのうえで『あ、これは違うんじゃないか』って思ったことは思い切って変えてみる。そこには行動力とか勇気とかも必要だから、なかなかできない。みんな、他の方法論は知らないし、試す勇気もないから、自分のやり方を押し付けちゃうんですよね。

 だけど『違うかな?』って、少しでも思ったのなら、そのクエスチョンを、素直に自分で受け止めてみたらいいと思います。行動するには勇気がいるけど、やってみたら『あら、うまくいった』って、案外、簡単かもしれませんよ。

 すると今度は、自分が考えて、クエスチョンを出して『こっちのほうがいいんじゃね?』って思ったことを、思い切ってできるようになるんですよね。こうなると、どんどん変われるわけですよ。『これもだろう、あれもだろう』って。

 いわゆる“成功体験”ですよね。指導者にも成功体験が必要で、一つの成功が、次の成功につながっていくんですね。

 私は、監督になって、それがわかりました。で、若い選手にも、小さな成功体験を与えるようになったのです。何が成功体験になるかは、人それぞれです。それは、一軍に上がることかもしれないし、認められることかもしれない。打席に立つことかもしれない。

『活の入れ方』『活の入れ方』(幻冬舎新書)
工藤公康 著、九重龍二 著、藤平信一 著

 あるいは、打てる打てないに関係なく、『君は一生懸命やればできる人間だから、頑張れ』って言ってもらうことかもしれない。でも、そうやってモチベーションが上がったときに、ポーンとヒットが出たりする。そしたら一緒に喜んで、ほめてあげる。それは成功の『プラス』になるんです。

 それが自信になり、勇気を持って、次の一歩を踏み出すようになります。成長って、この連続だと思うんですよね。指導者はきっかけを与えて、見守るだけ。育っていくのは本人なんです」

 その言葉通り、工藤さんは30歳から厳しく自分を鍛え直し、47歳まで進化し続けました。