想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第12回。対談相手は、アイティメディア社長でソフトバンクで社長室長を務めた大槻利樹氏。妻が突然の「余命宣告」を受けたとき、孫正義氏が涙を流してかけた言葉とは?最側近だった大槻氏が考える「孫正義が後継者に望む3つの条件」を教えてくれた。(取材・構成/ライター・梅澤 聡)
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誰も超えられない
孫正義の「学習能力」
井上 孫社長の「学習能力の高さ」はどこから来ているんでしょうか?
大槻 技術者、法律家、財務のプロフェッショナル……そうした専門家でも、学習能力において孫社長を超える人はいませんでした。ヤフージャパンを始めるとき、幹部を集めて「今日からソフトバンクはインターネットカンパニーになる」と宣言したんですが、孫社長は、その時点ではインターネットには詳しくなかったんです。
でも1年後には誰よりも詳しくなっていました。「なぜそんなことができるんだろう?」と不思議でしょうがなかった。もちろん猛勉強の成果なんですが、孫社長の勉強法が他の人たちと圧倒的に異なるのは、「その他を全部捨てる」ということ。つまり、マルチタスクではなくシングルタスクにするわけです。
孫社長だって、脳内のCPUやメモリーには限界がありますから、「1つのタスクに、すべてのリソースを注ぎ込む」わけです。その集中力たるや尋常じゃないですよね。
孫正義の「豊かな右脳」
感性と直感を経営に
井上 孫さんは「感性」や「直感」も卓越していると感じます。大槻社長がそれを感じたエピソードなどはありますか?
大槻 2008年の7月11日、iPhoneが日本で初めて発売されたとき、孫社長が直営店の「ソフトバンク表参道」に集まった人たちの前でiPhoneを高々と掲げ、「皆さん、今日からパソコンは必要ありません!」って宣言したんです。僕は心底驚きました。だって、昨日まで日本のパソコン業界を引っ張ってきた張本人が、「もうパソコンは必要ない」って言い出すんですから……ストーリーの組み立て方が絶妙なんです。まるで魔術師ですよ(笑)。
井上 ある意味、総合的なアーティストですよね。
大槻 孫社長は、油絵を描くのも好きなんです。もしかすると孫社長の頭の中では、事業をゼロから作りあげていくプロセスは、真っ白いキャンバスに絵を描いているのと同じなのかもしれません。
井上 孫さんが大槻さんに「限りなくアナログに近いデジタルは、アナログを超える」と言ったそうですが、この言葉の意味を教えていただけますか?