嘆くことで楽になるのではなく、仕事ができることで楽になる

榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)榎本博明『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)

 この事例のように、自分の情けなさをやたら嘆く人の場合、嘆くことで気分をスッキリさせているということがあり得る。自分が仕事ができないという思いや周囲に負担をかけているといった思い、つまり心の中の重荷を抱え続けるのが耐えられないという、いわゆるレジリエンスが低い人の場合、安易な方法で楽になろうとしがちである。つまり、人に嘆くことで手っ取り早く楽になれる。でも、いくら気分が楽になっても、それでは何も改善されない。嘆くことで一時的に気分が楽になっても、自分が仕事ができないという状況は何も改善されていないため、またすぐに気分が滅入ってくる。

 大事なのは、仕事のやり方を改善し、できるようになり、周囲に負担をかけるようなことがなくなることによって、本格的に気分を楽にすることである。楽になる方法が間違っているのだ。

 まずは、このようなことに気付いてもらうことが必要である。少しずつでいいので、仕事のやり方を身につけていき、できるようになっていく。それによって気分も楽になる。そのような方向に目を向けてもらうように、対話をしていく。

 そこを分かってもらえたら、自分はなぜ仕事がうまくできないのか、どこがまずいのか、といった自分自身の現状を振り返るように導く。

 自分自身の現状に問題があることに目を向けるようになったら、どんなことができるようになればいいのか、そのためにはどんなことに注意したらよいのか、といったことを考えるように導く。

 メタ認知的コントロールへと一歩を踏み出させるのである。メタ認知的コントロールというのは、自分の現状を振り返るというメタ認知的モニタリングを踏まえて、現状を改善すべく工夫することである。この場合で言えば、自分の問題点を踏まえて、仕事への取り組み姿勢を改善していくことである。