「そうです。どうなってるんだと思って、本人を呼び出し、個別に話したんです。何か特別な事情でもあるのかと思って。でも、特に何もなくて……」

『特段、何も事情はなかった、と』

「はい。ひたすら反省を口にはするんですけどね。『いつも気になっているんですけど、仕事ができずに皆さんの足を引っ張るばかりで、ほんとに申し訳なくて……』と言うのを聞いたときは、『そう思うなら、いい加減できるようになれよ!』と怒鳴りたいのを必死にこらえましたよ。いくら反省しても、一向に仕事のやり方が改善されないんです」

『たしかに、そんな調子では困ってしまいますね』

「自分が仕事でちゃんとできてないと分かってるなら、普通はこのままではいけないと焦るもんでしょ。で、必死になって仕事を覚えようとするじゃないですか」

『自分ができないことで周囲に迷惑をかけているという自覚があるなら、何とかできるようになって、足を引っ張らないようになりたいって思うでしょうね』

本当は「できるようになりたい」と思っていないのでは?

「そうですよね。でも、彼女を見てると、自分ができないことを嘆きはしても、できるようになりたいっていう思いがないんじゃないか、って疑いたくなるんです。そういう人もいるんですかね。できるようになりたいって思わない人も……」

『その方がどんな思いなのかは分かりませんけど、できるようになりたい、できるようにならなくちゃ、っていう思いがあっても、どうしたらできるようになるかが分からなければ、できるようにならないですよね』

「できるようにならなくちゃって思ってるんですかね?でも、確かに、どうしたらできるようになるかが分からなければ改善しないですね。だけど、普通は仕事をしているうちに、だんだんできるようになっていくんですけど、なぜそうならないのか……」

『経験を積むことでだんだんできるようになっていく人の場合、自分はなぜ仕事がうまくできないのか、どこがまずいのか、どんなことができるようになればいいのか、そのためにはどんなことに注意したらよいのか、といったことをごく自然に考えながら、仕事のやり方を改善していくわけです』

「そうですよね。彼女にはそれがないんですよ」