好きなことを仕事にした以上
それに関わる時間は長く
他にも20年のライブ制作経験によって、蓄積されている教訓もあるという。
「かつて、1回目のライブが成功して、2回目に全然お客さんが入らなかったことがありました。どんなライブもそうですが、初回は友人や親族が来るので結構埋まるんです。それで油断してしまうと継続できなくなります。これを当社では『2回目のジンクス』と言い、そうした意識をどんなライブでも持つようにスタッフに伝えています」
ただし、集客数で一喜一憂するようなことは、演者である芸人には悟られないようにしている。
「過去に満員にしなければいけないライブがあったんですが、埋まらなかったことがありました。その反省をブログに書いたら、出演していた芸人さんから『自分たちの人気がないように感じられるし、俺たちはすごく楽しくて成功したと思っているのに失敗みたいに書かないで』と怒られました。それを聞いて“やっちゃったな”と。それからは、ブログやSNSに書く内容については、芸人さんのモチベーションを下げないように気を付けていますね」
順風満帆に思えるK-PROだが、児島氏は今後の課題を次のように話す。
「ライブ運営という点では、優秀なスタッフがいるので心配ありません。ただ、私のように芸人さんの楽屋で色々コミュニケーションを取れるスタッフをどう育成するかは考えないといけないですね。私はまだ現場にいるつもりですが、永遠ではありませんから。また、私は芸人さんを笑わせたりするのも好きなので、そうやって本番前に“ほぐし”に行けるようなスタッフも、今後時間をかけて育成したいですね」
というものの、児島氏の働きぶりは常人ではマネができないだろう。劇場に行かない日でも事務作業や芸人のYouTubeのチェック、そしてK-PROに所属している芸人のマネジメントなどもこなしているのだ。
「休みだから、どこかへ遊びに行きたいとは思いません。お笑いを見ていることが1番リラックスできるんです。ブラックな働き方と言われるかもしれませんが、好きなものを仕事にした以上は、それに関わる時間を長くしないといけないと思います。これはお笑い以外の仕事でも当てはまるのではないでしょうか」
K-PROの成功は、生活のほとんどを児島氏がお笑いに捧げているゆえなのである。そんな児島氏とK-PROの元へは、20人ほどが毎月スタッフとして応募してくるという。しかし、その中でスタッフとして残るのはごく僅かだ。
「当社では、最初は無給のボランティアからスタートしてもらいます。中には1回だけ手伝いに来て辞める人もたくさんいます。作家志望やテレビ局志望の大学生のアルバイトは何人かいますが、うちの社員になる人は割合で言えばかなり少ないです。イベンターに向いているのは、第一印象がいい人ですね。トゲトゲしてたり、プライドが高そうな人、スマホばっかりいじっている人は続かないです。ただ、『うちでは金髪はダメだよ』と言った人が、次の日に真っ黒に染めてきたときは『根性あるな』と感心しました。その人は、うちの社員になっています。長く続くのは第一印象がいい人とそういう素直な人、そしてお笑いのライブをちゃんと見たことがある人です」
児島氏は芸人の気持ちを察するのと同様に、スタッフとも現場でコミュニケーションを取り、相談事などを聞くことが多いそうだ。児島氏のノウハウやマネジメントはお笑いライブの分野に限らず、他のライブ制作でも生かせる点が多そうである。
「芸人さんファーストと散々言ってきましたが、もちろんお客さんのことも考えたライブ制作をしています。うちの劇場の椅子はお笑いの劇場では1番フカフカなので、ゆったり見られますよ!」
最後にこうメッセージを添えた児島氏。今後もK-PROがお笑いシーンでどのような革命を起こすのか楽しみである。