そうするうちに、また食事量が落ち、熱も出てきました。積極的に治療をおこなうとすれば、入院・絶食・点滴ですが、ご家族も、もう入院は希望されません。
食べたい物、飲みたい物を、口からとれるだけの量をとって。好きな入浴も、予定したとおりにおこなって。
妻には、時間があれば手を握って、昔の楽しかった時の話をしてもらうよう、お願いしました。「あの時は楽しかったですね」と言うと、夫が握っていた手をピクッと握り返してくれたそうです。
「先生の言われるように手を握っていたからわかったんです。夫婦ですから、いろいろありましたとも。でも、あれで私は生きていけます」
Yさんは、自宅でおよそ3週間をすごし、静かに亡くなられました。
胃ろうは本人にとって
幸せなことか?
食べられなくなったら、どうしますか?
「食べられなくなれば、ハイ胃ろう、いっちょあがり!」
と、何も考えず胃ろうにする風潮がありました。
でも、それは本人にとって、幸せなことだろうか。
それを世に問われたのが、石飛幸三先生であり、著書『「平穏死」のすすめ』です。
私どもは、東京・世田谷の特別養護老人ホーム「芦花ホーム」まで、石飛先生に教えを受けにいきました。石飛先生を広島にお招きし、これまでに3回、市民公開講演会を開催してきました。多くの方に、石飛先生のお話を聞いてほしいと思っております。
胃ろうにするべきかどうか、迷っておられる方・ご家族には、『「平穏死」のすすめ』を読むことをお勧めすることも多いです。出版されたのはだいぶ前のことになりましたが、今でも内容は十分通用します。
『「平穏死」のすすめ』を読みました、と、当院に訪問診療の依頼に来られる方も、珍しくありません。しかし、Yさんのご家族のように、本当に何度も何度も読み込んでおられた方というのは、なかなかおられません。
納得するまで何度も読み込むというのは、素晴らしいことですね。