お金は「天下の回り物」。そう考えれば全体の流れがよく見える
山口 松本さんは「波」という言葉をよくお使いになりますが、お金に関しても「意識の波」という表現をされていますね。お金については、ほかにも「社会財」「社会の議決権」などという言葉で表現されていますが、改めて、お金をどのように捉えていらっしゃるか伺えませんか。ご発言から拝察するに、「お金はいつも流れている。それでいいんじゃないか」という考え方をお持ちのように感じます。
松本 お金は「天下の回りもの」ですよね。私が初めてそう思ったのは、19歳のときでした。
山口 19歳ですか?会社に入る前ですね。
松本 お金は天下の回りものだと考えれば、気が楽になります。実際にそれで僕はお金の呪縛から解かれましたから。そう考えたほうが、お金の流れはよく見えるようになります。「傍目八目」という言葉がありますよね。お金にばかり執着していると、全体の流れは見えないと思うんですよ。
山口 それは、ご著書に書かれているお友だちのお母さまが「ちょっとアメリカに行ってきなさいよ」とお金を出してくださったことがきっかけですか。
松本 そうです。それ以前と以後のお金に対する考え方の変化は、現在の水準を100%とすると、60%から70%ぐらいはその瞬間に起こりました。自分の中でメジャー・レボリューションが起きたんですね。
山口 僕は自分の価値観がお金に縛られていると思っていて、だからこそお金とは何か、ずっと考えてきました。ちょうど松本さんが1999年にマネックス証券を起業されたころ、社会人になりたてだった僕は、自分の人生の可能性を制限するものとしてお金を捉え、性と同じように不浄のものと考えていたんですね。そんなときに、松本さんが「マネックス」という言葉をサラッと使われた。衝撃でしたね。この人はお金に縛られていない、自由な人なんだと。そんな松本さんは、お金以外で何か縛られているものがありますか。
松本 縛られてないですねえ(笑)。僕は『お金という人生の呪縛について』という本のあとがきに、こんなことを書いています。
「そもそも自分という存在は社会のなかの一現象であり、実験的な研究材料を提供しているようなものです。そう考えると気が楽になり、しがらみから解放され、肩から力が抜けて自然体となり―」
結局「どこまで行きたい」「何かになりたい」「これだけ欲しい」と考えてしまうと、それとの対比で「できていない自分」に対して不安になったり焦燥感に駆られたりしてしまいます。あるいは、目標があると他人とつい比べて「自分はこれだけやったけど、あの人のほうがもっとすごい」と正当な評価ができなくなってしまいます。僕は「どこまで行きたい」「何になりたい」というゴール・セッティングがない人間なんです。