アベノミクスは極めて当たり前のことをやっている

山口 デフレ、インフレの話で言うと、1. 金融緩和、2. 財政出動、3. 成長戦略を柱(「三本の矢」)とするアベノミクスと、現在の株高の関係をどのようにご覧になっていますか。ご著書のなかでは「ファンダメンタルが見直されている」と書かれていたと思います。お金の流れは、新陳代謝を目指し新規産業に向かうのか、あるいは55年体制で作り上げた産業オペレーションに戻っていくのか。

松本 その点はあまり考えたことはありませんが、デフレから脱却しようというアベノミクスは、まったく妥当な判断、妥当なアクションだと思いますね。

 そもそもおかしかったんですよ、日本は。これだけ生産技術が発達しても、それに見合う対価が支払われない。その状態をやめようとするアベノミクスが期待デフレを期待インフレに変え、期待実質金利がポジティブからネガティブに転じた。いままで日本は先進国で唯一、期待実質金利がポジティブだったので円高になっていましたが、他国と同じようにネガティブに振れて(政権交代前から)20%円安になった。簡単に言うと、日本の産業は20%の競争力をインスタントに手にすることができたのです。

山口 なるほど。

松本 よく3本目の矢が放たれないと(3. 成長戦略が実現されないと)ダメだという人がいますが、僕からすれば「?」ですね。もちろん実現したほうがいいに決まっていますが、円安という1本目の矢が放たれただけでも、企業の競争力が20%上がったのです。

山口 そうですね。

松本 日本の債務残高はGDP比で約240%です。でも1990年代から名目GDPが3%ずつ伸びていれば、債務残高は130%ぐらいの「どうでもいい」水準になっていたはずです。名目GDPが伸びなかったから、いろいろな問題が起きてしまった。ということは、アベノミクスでデフレを脱却して名目GDPが伸び始めれば、債務残高比率は下がるはずなんですよ。

 ザックリ考えてみましょう。これまでは日本国債の金利が1%、デフレ率が2%とすると実質金利は3%という状況でした。これがインフレになると、当然国債の金利も上がります。たとえば国債の金利が3%になったとすると、これまでの3倍の金利になると危惧する人がいますが、実質金利で考えれば国債の金利が3%でインフレ率が2%であれば実質金利は1%という数字になります。国の実質的な金利負担は3分の1になります。

 僕から見れば、アベノミクスは今までできなかった極めて当たり前のことをやっているだけに見えますけどね。その点を誤解することなく「緩やかなインフレのほうが、国全体にとってはいいことなんだ」という点が理解されると、日本もずいぶん良くなるんじゃないでしょうか。その後、お金の流れが昔の形に戻るかどうかは、アベノミクスとはまた別次元の問題だと思います。

山口 なるほど。

松本 安倍総理が、従業員の賃金を上げましょう、と呼びかけているじゃないですか。マネックスグループもそれに応えて、年収の3%を特別一時金として支給しました。そういう流れがもっと広がっていくと思います。日本の経済をみんなで良くしていくと、みんなが楽になると思うんですけどね。

次回は4月11日更新予定です。


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