世界のビジネスは「マウント」でできている!?
勝木 本書では日本の事例しか扱っていないのですが、マウンティングという行為の根底には、老若男女問わずグローバルにも通底する全人類普遍の何かが横たわっているのではないかと思っているのですが、岩瀬さんどう思われますか?
岩瀬 そうだと思います。本にもありましたが、スタバやWeWorkも、組織の戦略としてクリアに意識してないかもしれませんが、結果としてマウンティングエクスペリエンス(MX)を提供していますよね。
勝木 そういう意味ではテスラも「地球に優しい」という、ベンツとは違うマウンティングエクスペリエンス(MX)を提供していますし、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンはまさしく世界中にマウンティング体験を与えているようなものですよね。
岩瀬 なるほど「地球に優しい」ですか。
私たちは見えないところで自分たちが思ってる以上に、いろいろなところで何かの衝動で動かされていますが、必ずしも経済的な理由だけではありません。その中にマウンティング的な柱がいくつかある、というのがおもしろいですよね。
終わりなき「マウント」と、その先にあるもの
勝木 一方で、今は「マウント疲れ」みたいなものも世界的に問題になっていますよね。
ブータンは世界一幸せな国だったけれど、スマホが普及したことによって、他者との比較が生じて幸せではなくなってきたという話もあります。
SNSもそうですね。最近X(Twitter)は殺伐としてますが、そのほうが収益的には儲かるんだと思います。広告収入を得るために迷惑な投稿をおこなう「インプレゾンビ」が注目されていますが、中毒性があるから、やめられなくなっているのかもしれません。
岩瀬 比較や競争など、数値ではかる世界はキリがないですよね。
そこに「うらやましい」という心があるからマウントも出てくる。
では、そのうらやましいと思う心がどういうふうに変化していくのかというと…。
僕がアメリカに留学してるときの話ですが、ビジネススクールでは、たくさんの成功者のスピーチを聞きました。
ある人の「10億円で会社を売却しました」という話を聴いて驚くと、翌週には「100億円で会社を売りました」という人がスピーチをする。「すごい」と思っていると、今度は「2000億円で売りました」という人がやって来て…。
そういう人たちを見て見て思ったのは2つのことでした。
「キリがないな」ということと、「0(ケタ)が一つ違うだけじゃないか」ということ。別に金額の大きさはそれほど関係ないなと。
「◯円で会社を売りました」というケースを数え切れないくらい見てきたから、「もっと上がいる」と思えて、次第に興味もなくなっていきました。
そうなると、世の中の「うらましい」と思う気持ちは、どこに向かっていくのだろうと。
勝木 そう考えると、究極のマウントは、お金で買えないものを持っていることなのかもしれません。
岩瀬 マウントとは無縁の生き方をしている人こそ幸せであり、同時に、周りの人たちにとっては最大級のマウントとも言えそうです。深いですね、このテーマは。
勝木 哲学の領域ですね。これからも調査を続け、掘り下げていきたいと思います。
※対談はこれで終わります