ダイヤモンド社刊
1890円(税込)

「いかなる事業も、より大きな経済的状況の一部として存在する。したがって、いかなる事業計画も、経済情勢を無視することはできない。しかし、マネジメントが必要とするものは、通常の意味における景気予測ではない。それは、景気循環への依存から自らの思考と計画を切り離してくれる手法である」(ドラッカー名著集(2)『現代の経営』[上])

 景気循環から目を離してはならない。しかし、景気循環に焦点を合わせている限り、なにもできなくなる。そもそも今、景気循環のどこにいるのかさえ、いかなる経済学者にもわからない。景気循環についてなにかがわかるのは、循環の波が通り過ぎた後である。

 したがって問題は、経済情勢がいかなる段階にあるかにかかわりなく、事業上の決定を行なうために押さえておくべきことは何かである。

 押さえておくべきこと、行なうべきことは四つある。

 第一は、過去の経験から最悪の状況を想定しておくことである。これさえ行なっておけば、派遣切りのような切羽詰まった状況に追い込まれる危険も避けられるはずである。これは、最悪の事態を最小にとどめるという意味において、ミニマックス分析と呼ぶことができる。

 第二は、すでに起こった変化がやがて経済に及ぼすであろう影響を想定しておくことである。中国が経済発展の意味を理解したということは、すでに起こったことである。必ずその影響は表れる。これをドラッカーは、底流分析と呼んでいる。

 第三は、あらゆる経済現象が一貫した傾向の下に動くことから、その趨勢を把握しておくことである。これを趨勢分析と呼ぶ。

 しかし、これら三つの分析を組み合わせても、得られる知識は推測にすぎない。したがって、第四に、あらゆる決定において、適応と変更のための道を用意しておくことである。

 すなわち、明日の決定と行動のために、明日の経営管理者を今日育成しておくことである。

 「今日のマネジメントは、明日の経営管理者を育成しておかなければならない。今日の決定を明日の情勢に適応させ、理性的な推測を現実の成果に結びつけることのできるのは、明日の経営管理者である」(『現代の経営』)