梅干し写真はイメージです Photo:PIXTA

食塩の摂取量が成人病の発症を左右するとして、「減塩商品」が出現。塩を嫌う風潮は年々加速し、減塩は「慣れ」の問題で、長い時間をかけて人々の舌は塩分控えめに適応していった。※本稿は、澁川祐子『味なニッポン戦後史』(集英社インターナショナル)の一部を抜粋・編集したものです。

「塩分の摂りすぎは体に悪い」
塩好き国民を包んだ「減塩」の大合唱

 塩は、生命維持に必要なミネラルを補給するのに欠かせない。だが、塩分の摂りすぎは、脳卒中や心臓病などを引き起こす高血圧のリスクを高めることがよく知られている。ややこしいのは、塩分が血圧に及ぼす影響は個人差があり、塩分の過剰摂取と高血圧との関係は今も解明途上にあることだ。ここではその是非ではなく、減塩の大合唱がいかにして巻き起こったかを追ってみたい。

 現在、日本人の食塩摂取量は男性が10.9グラム、女性が9.3グラム(令和元年国民健康・栄養調査)。対して厚生労働省による1日の食塩摂取目標量は男性が7.5グラム未満、女性が6.5グラム未満だ。WHO(世界保健機関)では1日5グラム未満を推奨していることから、世界的にみて日本人は塩を摂りすぎだとよくいわれる。その理由としては、醤油やみそなどの塩分を多く含む調味料が多いこと、漬けものや干物など塩を使った食品保存が伝統的に行われてきたことなど、食習慣の影響が指摘されている。

 日本で食塩摂取量と脳卒中との関係が注目されるようになったのは、20世紀半ばのことだ。先駆けとなったのは、東北大学の近藤正二博士が1952年(昭和27)に発表した論文だった。

 近藤は全国をまわって各地の気候、仕事や日常生活、食習慣を聞き取り調査し、寿命との関連を考察した。1972年(昭和47)刊行の『日本の長寿村・短命村』(サンロード出版)は長年の調査について語り下ろしたもので、ロングセラーとなった知る人ぞ知る一冊だ。

食塩摂取量が多い東北地方は
高血圧の頻度が高いとの調査結果

 それによると、1935年(昭和10)から短命の村を探しては歩き、36年間でまわったのは990カ町村。最初は重労働やどぶろくの酒量が短命の要因ではないかと疑っていたが、全国で一番寿命の短かった秋田県の短命村に共通していたのが、塩辛い漬けもので大量の米を食べていることだった。俗に「一升めし」と呼ばれていた偏食が塩分の過剰摂取につながり、脳出血を招いていると結論づけた。

 1961年(昭和36)に発表されたアメリカのダール博士による疫学調査も、日本人に強く減塩を意識させるきっかけとなった。