SDV=ソフトウェアに定義
された乗り物という概念

「CASE」の4要素すべてに関係するのが、「ソフトウェア」の存在です。ソフトウェアによって仕組みと役割が大きく変化した自動車のことを「ソフトウェアディファインドビークル(SDV)」(ソフトウェアに定義された乗り物の意)と呼びます。

 5月20日、経済産業省が開催した「モビリティDX検討会」では、このSDVの世界市場で「日系シェア3割」を2030年および2035年に実現することを目標に掲げました。デジタル化の進む自動車産業においてグローバル競争に打ち勝つことを考えると、政府のこの考えはとても素晴らしいと思います。一方、検討会で示されたSDVの定義はあいまいな部分も多く、何をもって「3割」という数字が掲げられたのかも分かりにくいため、今後の動向を注視していきたいところです。

 SDVとはどういうものか、パソコンやスマートフォンなどをイメージすると分かりやすいと思います。パソコンやスマホはハードウェアだけでは使えません。OS(基本ソフト)やアプリケーションが搭載されて初めて使い物になります。またハードウェアが同じでもOSは定期的にアップデートされ、不具合が解消されたり、新機能が追加されたりします。

 この「ソフトウェアで定義された」という考えは、SDN(ソフトウェアデファインドネットワーク)と呼ばれる概念から始まっています。2010年代に広く普及したこの技術では、ネットワーク制御の機能を物理的なデバイスからソフトウェアに移したもの。これにより、一元的なコントロールが可能になり、ネットワークの動的な再構成や効率的なトラフィック管理が実現しました。

 SDNには、自動化による手作業の減少、コスト削減や効率の向上といったメリットがあり、迅速なサービス提供と運用の柔軟性向上を可能にしています。

自動車の大変革をもたらすソフトウェア化、日本勢は“SDV”でも戦えるのか従来のネットワークとSDNの違い

 SDVは、SDNと似ています。自動車もネットワーク機器も、動作には従来からソフトウェアが必要ですが、SDVとSDNではソフトウェアがより中心的な役割を担います。

 自動車には多数のコンピュータが搭載されており、これらをつなぐ車載ネットワークが存在します。SDVでは、この車載ネットワーク全体をソフトウェアで一元管理し、車の機能や性能を自由に調整できるようになります。クルマはそれによって新しいアップデートを受け取ったり、新しい機能を追加したりすることが可能です。これはSDNがネットワーク全体をソフトウェアで制御し、より柔軟かつ効率的なネットワーク運用を実現しているのと同じです。

 例えば、自動運転や先進運転支援システム(ADAS)は、車両の複数の機能を統合して実現します。レーダーやカメラを用いて先行車との安全な距離を保ちつつ速度を自動調整する「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」、ハンドル操作を含むレーン維持を行う「レーンキープアシスト(LKA)」といった個々のシステムが、SDVの枠組みの下でソフトウェアによって一元的に管理されることで、より効率的で柔軟なクルマの制御が可能になります。