ことばの発達は一歩ずつ、焦らずお子さんに合わせて

 このように、お子さんのことばの発達は、日々、一歩ずつ進んでいきます。発達には個人差があり、すべてのお子さんが一様に進むわけではありません。瞬間を切り取ればまちがいだらけだったり、発達が停滞しているように感じられることもあるかもしれません。ですが、その子なりのペースで歩んでいるので、周囲は見守ったり、さりげなく支えてあげることが大切です。

 普段の生活のなかで、ことばの力を引き出すには?とよく聞かれます。ことばの発達は、生得的な能力と環境との相互作用。とはいえ、周りの大人が特別なことをなにもしなくとも、お子さんはみずからの力で身の回りにあることばのヒントをたくさん得ています。ことば育ては毎日のことなので、肩の力を抜いて取り組んでいただければと思います。

子どもに「少し難しいことば」を提供する価値

 日頃のかかわりについて、強いて挙げるならば、お子さんの発達段階に合わせたかかわりが重要です。お子さんのことばの発達段階を見極める時には、まずはお子さんのしゃべっていることをよくよく観察します。それから、ことばは理解とおしゃべり(表出)に分かれます。原則、理解の発達は表出よりも先行するので、話していることばの水準よりも、理解力のほうが常に少しだけ上回っています。

 つまりお子さんには、「分かっている、聞いたことあるけれど自分では使ったことのない語いや表現」がいろいろとあるということです。たとえば会話の中では、お子さんが「ワンワン いる」と言ったら、「そうだね、わんわん、犬いたね~」のように少しだけステップアップした表現でお子さんの言いたいことを言い換えたことば掛けをします。

 あまり難しすぎると、子どもの知らない表現ばかりになってしまうので、「聞いたことがあるけれど使ったことはない」あくまで”少しだけ難しくする”というのがコツです。それから、否定的にではなく、あくまで肯定的、受容的にことばを掛けることも重要です。たとえば、「違うでしょ、「ワンワン」は赤ちゃんみたいなことばだから、「犬」って言いなさい!」のようにたしなめるのではなく、「そうだね、ワンワン、犬いたね~」のように、お子さんの選んだ言葉を受け止めつつ、別の表現を付け足してあげるとよいでしょう。

 ことば育ては長期戦。ことばを学ぶ経験は、ポジティブに積み重なっていってほしいと思います。肩の力を抜いて、楽しみながら、お子さんのことばの発達に注目してみるきっかけになれば嬉しいです。

寺田奈々(てらだ・なな)
【プロが解説】子どもの「ことば」を育てるために、親ができること

慶應義塾大学文学部卒
大学卒業後、2年過程の養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、耳鼻科クリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。著書に『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)『ことばを引き出す遊び53』(誠文堂新光社)『絵をみてまねっこ!いっしょにできたねおしゃべりカード』(合同出版)がある。専門は、お子さんのことばの発達全般・吃音・発音指導・読み書き学習面のサポート・大人の発音矯正。