「子どもの寝かしつけで読む絵本がない」「絵本を読んでもイマイチ盛り上がらない」「毎晩同じ絵本を読んでいて飽きた……」。そんなお父さん・お母さんにおすすめなのが『ねこのおせわをしてください。』(シルヴィア・ボランド著、清水玲奈訳)だ。本書は10年前にイタリアで刊行され、各国の優れた児童書を集めた世界的に権威のある児童書リスト「IBBYオナーリスト」(2014)に選出されたのち、ヨーロッパ各国で翻訳出版されたロングセラー絵本。
今回、シリーズ3作『ねこのおせわをしてください。』『いぬのおせわをしてください。』『ハムスターのおせわをしてください。』が「えほんのペットシリーズ」として同時刊行されることになった。発売を記念して、本書の翻訳者である清水玲奈氏に、本書が子どもにウケる3つの秘密を聞いた。
① 「絆」が生まれる特別な絵本
感受性豊かな子ども時代に、一流のデザインプロダクトである絵本を手に取ることができたら、その子の一生はとても豊かなものになるでしょう。
「えほんのペットシリーズ」の原書を手にとったときも、まず大人目線で見てもかわいいイラストに魅了されました。
本書の冒頭には、「動物に名前をつけてあげる」という仕掛があるのですが、これにも優れたデザインを感じました。この仕掛けがあることで、絵本と読者の間に、特別な絆が生まれると思います。
② ペットに「振り回される」のが面白い!
ペットたちは思いがけない行動に出ます。涼しい顔をしてつい本性を出してしまう猫。「お手」と言っても聞こえないふりをする犬。ページの外に脱走するハムスター……。天真爛漫な動物たちの自由奔放で生き方に魅了されました。
読者はそんな勝手気ままな動物たちのお世話をしなくてはなりません。絵本はさまざまな指示を読者に投げかけます。
翻訳の際には、独特のユーモアが伝わるように、そして子どもがすんなりと指示を理解してペットのお世話に集中できるように、言葉づかいを丹念に工夫し、わが子の意見も聞きながら、何度も推敲しました。
③ デザイン大国イタリアだから生まれた絵本
イタリアには、ブルーノ・ムナーリ、エンゾ・マリ、イエラ・マリら、卓越したグラフィックデザイナーとして年齢を超えて楽しめる絵本を制作した作家たちがいました。数々の名作絵本は、今も長く読み継がれ、世界中の美術館で展示されています。
本シリーズの著者、シルヴィア・ボランドとロレンツォ・クレリチは、そんな系譜に連なる絵本作家です。
ボランドはミラノ工科大学デザイン学部を卒業後、グラフィックデザイナーとして活動するかたわら、イタリア中部の文化都市であるレッジョ・エミリアに絵本出版社ミニボンボを設立し、画期的なビジュアルとインタラクティブなしかけのある絵本を送り出しています。
クレリチはボランドと同じデザインスタジオで映像作家として活動しながら、ミニボンボで絵本の企画と制作を手掛けています。ふたりの作品は、英語圏やフランス語圏でも高い評価を得ています。
紙の絵本だから体験できる、楽しい時間
イタリアらしい優れたデザインとユーモアのセンスが生きた絵本は、二次元の絵本の世界を最大限に膨らませる工夫に満ちています。
デジタル時代の子どもたちにこそ、その豊かな世界を味わってもらいたいです。絵本史上に残るこの作品を親子で楽しむ時間は、本物のかわいいペットと同じくらい、子どもたちの心に残る贈り物になるでしょう。