「大谷選手への謝罪の言葉は?」
日米の記者の質問に唖然とする差
5月中旬、米大リーグ ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳、水原一平容疑者(39)の罪状認否が行われ、群がる日米の記者たちが、うつろな顔で入廷する水原氏に次々と質問を浴びせるシーンが、朝からテレビで何度も放映されました。その映像を見て、日米の記者の質問力に大きな差を感じたのは私だけではないでしょう。
テレビでは日本語の質問はナマの日本語でオンエアされ、外国人の英語(スペイン語も?)は、音声をカットされて翻訳した日本語がナレーションで流されます。日本語の質問は「水原さん、ひとことコメントをください」「何かひとこと言うことはありませんか?」といった、中味のないお願いベースの、質問とさえ言えないもの。
逆に外国人記者の質問は「大谷選手に謝罪する言葉はありませんか?」「もうギャンブルはしませんか?」「ご自身の家族に言うことは?」「大谷選手に嘘をついたのはどんな気持ちからだったのですか?」「日本時代からギャンブルは好きだったのですか?」という具体的な質問です。
私はこのシーンを見ながら、日米の記者の取材力の違いに大きな落胆を覚えました。水原氏は日本人で、しかも容疑者。日本語は十分通じるのに、「コメントをください」という中味のない、何か一言とれば本社に言い訳がきき、紙面も埋められる……という読者不在のサラリーマン根性しか、記者の質問から感じられなかったからです。
今や日本のメディアは朝から晩まで大谷報道で埋めつくされています。そして、大体が同じ報道と映像です。本塁打を打ったか、安打数はいくつだったかと、大谷の成績ばかりで、ドジャースが勝ったかどうかさえわからない放送もあります。これが野球報道でしょうか。野球をよく知らない「スター大谷」が目的の視聴者をメインとするテレビは仕方がないかもしれませんが、せめてスポーツ紙は大谷選手の米国での成功について、もっとプロらしい記事がつくれないのでしょうか。
ご存じのように、水原元通訳の「犯罪」告白は、米国のスポーツ専門チャンネルESPNのスクープインタビューで始まりました。韓国戦が終わった夜、チームのロッカールームで告白するという劇的な展開でした。あとで話の内容が完全に嘘であったことはわかりましたが、この局の記者の努力がなければ、この恥ずべき犯罪は表に出ないまま、大谷選手も加担したことにされた可能性さえありました。
その嘘を聞いた大谷選手の翌日の記者会見を受けても、日本人記者たちの現地取材は、米国記事の紹介や米国記者へのインタビューばかりで、肝心の水原氏のインタビューや米国での過去を取材できた記者はいませんでした。米国の記者のほうが、水原氏の詳しい過去を調査することに成功していたほどです。