コピーライター&クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップする思考と技術』は、個人とチームの両面からアイデア力を高める方法を解説するユニークな書として注目されている。仁藤氏と親交のあるクリエイターの方々に、同書の読みどころやアイデア発想術について語ってもらう本連載の特別編。第1回のゲストは、電通コミュニケーション・クリエイターの鈴木雄飛氏だ。CM、WEB、PRなどの広告企画だけでなく、最近では、企業コンサルティングなどクリエイティブの力で企業の課題解決のために社内外のMVV設計や組織文化づくりを幅広くサポートしている。そんな鈴木氏のアイデアを生みだす方法とは?(取材:ダイヤモンド社書籍編集局、撮影:石郷友仁)
資料がキレイすぎるから
文字だけの企画書にしてほしい
――仁藤さんとの出会いは、どういうことだったのですか?
入社して半年後くらいのことですが、局内の面白い人たちが何をやっているのかを紹介するという勉強会がありました。そのときの仁藤さんのアイデア発表がとてもおもしろかったので、個人的に「一緒に仕事をやりたいです」と言いにいったら、「じゃ、この案件一緒にやってみる?」と声をかけていただいたのがはじまりです。
株式会社 電通 コミュニケーション・クリエイター
1989年生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、2012年電通入社。CM/WEB/PRなどの広告企画だけでなく、事業やタレントのコンサルティング、PR・イベント・WEBプロモーションの広告企画だけでなく、経営伴走やコンサルティングなど幅広く従事。デジタルハリウッド大学客員准教授、大正大学招聘教授を兼任。
――仁藤さんと一緒にやった仕事の中で、特に印象深いものはなんでしたか?
いちばん最初に入れて頂いた案件がオーディオメーカーの仕事です。当時、僕の所属はマーケティング局で、クリエイティブの仕事は何もかもが初体験という意味で新鮮でした。しかも、僕以外のみなさんは入社10年目以上のすごい人たちで、議論の内容を聞いていても全然ついていけないというか…。とにかくすごく印象に残っています。
――仁藤さんから言われたことで、何か大事にしていることはありますか?
あるとき言われて今も大事にしているのが、「雄飛は資料がキレイすぎて、たいしたことない企画もすごく見えて勘違いしやすいから、次からは文字だけで企画書を持ってこようか」と言われたことです。学生時代からパワーポイントが得意で、ビジュアルを多用した資料をつくっていたのですが、たしかに…とショックを受けたのを今でも覚えています。今でもその教えは守っていますね。
ネガティブなものの中に
インサイトのヒントがある
――今回、『言葉でアイデアをつくる。』を読まれての率直なご感想は、いかがでしたか?
仁藤さんから直接教わったことがたくさん入っていて、当時を思い出しながら読ませていただきました。一方で、これは教えてもらっていない!というものも多くあって、面白かったですね。
たとえば、第5章「いいアイデアを見極める技術」の中で、カフェなどで冷たい飲み物を頼んでテーブルの上に置くと、水滴がついて不快に思うというインサイトが出てきます。普通にコースターを敷いてもいいのですが、課題は“水滴がつくこと自体ではなく、びちゃびちゃで不快に感じること”と捉えることで、水滴が桜の形になるグラスというプロダクトが生まれる。仁藤さんに教わった大好きな事例です。
本の中で「インサイトの発見は、ネガティブなものの中に多く潜んでいる」とあるのですが、人の心の機微やツボを深く洞察する上で、とても大切な視点だと思います。普段企画をしていると、ついインサイトをおざなりにしたアイデアを考えてしまいがちになるので、ピンと背筋が伸びたというか。今このタイミングで、大事な基本を再確認できてありがたかったです。
「正解がない」ということを
どうみんなで共有できるか
――それ以外では、何か特にここが良かったなどのポイントはありますか?
第3章「アイデア発想の応用技術」のところでアナロジー思考について書かれている箇所があるのですが、本当に企画が上手い人って、まさにここだよなと思います。ブレストをする中で、ある発言から似た事例や日常の記憶を引っ張ってきて、アイデアに昇華してしまう力がハンパない。「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ」というのは、『アイデアのつくり方』(ジェームスW.ヤング著)に書いてある通りですけど、既存と既存の何をくっつけるかがカギとなります。
事例研究も大切ですが、普段生活する中で自分の感じたことが栄養になってアイデアに結び付くことが多いので、ちゃんと生活するって大事ですし、遠いところのもの同士をアナロジーでいかにくっつけて考えられるか。その重要性を再確認できました。
あとは、第3章「アイデア発想の応用技術」で、アイデアが飛ばないときの対処法として「フレームアウト思考法」というものが出てきます。いちばんあり得ないアイデアを出してください、というものですが、これ、とても重要な視点だと思います。
今、2つの大学で企画について教えているのですが、最初からいいアイデアを出そうとする学生ほど、かえって躓いてしまう傾向が見られます。量が質を担保していく世界なので、まずアイデアの量を出すことが大事になってくるのですが、どうしても恥ずかしがったりしてしまうんです。なので、とにかくいちばんあり得ないアイデアを出してくださいという問いかけは、タガを外すことができるので、おすすめの方法かなと思います。
アイデアには正解がないからこそ、その自由さを、みんなでどう共有していくか。本を読むと、そうだよなと思うんですが、教えるときにはそこのところがつい抜け落ちてしまいがちになるので、改めて気を付けたいなと思いました。
「アイデアの軸」を基に
発想を広げる
第4章の中で「アイデアが正直微妙だと思ったときに何を見ていくか」という節で説明されている「アイデアの軸」を決めるというのは、今まさに学生に教えていることの1つです。チームのアイデア力を高めるコツは、ほとんどこれなんじゃないかと思います。学生同士の議論を見ていてよく思うんですが、A案が出ました、B案が出ましたというときに、では、どちらがいいか多数決で決めようという話になってしまうことがままあります。
でも、ブレストで本当に大事なのは、アイデアを重ねられるか。A案、B案と出たときに、そこから真に優れたC案をつくるというのが創造的なブレストだと思います。なので、重ねずにA案かB案で選ぶのはもったいない。でも、どう重ねたらいいかがわからない。そのときに役立つのがこの「アイデアの軸」の視点です。
ポイントは、「抽象化と具体化の往復」だと思います。A案、B案と具体的な話が出たときに、いかに「アイデアの軸」を抽象化して捉えられるか。具体レベルでは違うアイデアに見えても、抽象化してみると近いことをやろうとしていたり、思わぬヒントが見つかったりします。みんなが合意できる抽象的「アイデアの軸」を磨いた上で、再度具体的なアイデアを検討する。この往復がいちばん効果的だと思います。
ものわかりの悪い
もう一人の自分を飼う
――鈴木さんご自身のアイデア発想術とは、どんなものなのですか?
僕は、アイデアを考える際、自分の中で仮説を積み上げていくにつれ、どんどん「こういうことなのでは?!」と思い込みが激しくなってしまう傾向があります。共感いただける方におすすめなのが、「ツッコミ発想法」。「ものわかりの悪いもう一人の自分を自分の中に飼って、ことあるごとにツッコんでくれる」というものです。
たとえば、今このインタビューを録音しているこのICレコーダーを売らなければならないとします。普通に考えると、別にスマートフォンで録音できるから必要なくない?ってなる。そのとき、ものわかりの悪いもう一人の自分を飼っておけると、「ほんと?データ容量大丈夫?」とか「電池切れで不安でも冷静にインタビューできる?」って、批判的な視点からツッコミをささやいてくれるイメージです。自分の思い込みからいかに外に出られるか。思考を偏らないように注意して、盲点に気づくというのが、僕がやっているアイデア発想法です。
いいアイデアには、
驚きと納得がある
先ほど水滴が桜の形になるグラスの話がありましたが、つまりいいアイデアとは、驚きと納得があるということだと思います。人は普段見聞きしたことのあるような想定内のことを言われても、驚かないし見向きもしてくれない。でも、グラスについた水滴が桜の形になるという想定外のことが起きたら、どういうこと?! と驚いて注目する。「アイデアジャンプ」という言葉がありますが、これは想定内から想定内への飛距離のことだと思います。
想定外のことが起きて驚くと、それがなぜなのか、人は理由を知りたくなる。そうか水滴がテーブルにつくのが嫌なんじゃなくて、びちゃびちゃだと不快に感じるから桜の形にしたのか、と納得できると、気持ちいいですよね。「なんで?」という驚きと「なるほどそうか!」という納得がどちらもあると、とてもいいアイデアになります。
ロジカルに考えるだけだといいアイデアが出にくいのも、ここに原因があります。論理的なことはたいてい想定内から出発するので、想定外への飛距離が足りず「アイデアジャンプが足りない」となる。でも自由すぎると、意味がよくわからず納得できないからアイデアが通らない。この絶妙なラインを一発回答するのは至難の業だからこそ、まずはたくさんアイデアを出して、理想的な飛距離を検証するプロセスが必要です。だから「アイデアは質よりも量が大事」なのだと思います。
考えもわからないことは、
考えてもわからない
僕が大切にしている信念のひとつに「考えてもわからないことは、考えてもわからない」というものがあります。考えても答えが出ないのは、それは考えが足りないのではなくて、情報が足りないから。その視点を常に持つ必要性を感じます。
一人の人間が考えられることには限りがあるからこそ、現場を見に行ったほうがいいし、人と話した方がいいし、思考よりも実感が決め手になるかもしれない。とにかく、人生と世界にまつわるあらゆることが栄養になるので、広告をやりたかったら、広告のことだけをやっていたら狭すぎると思います。
というのも僕自身が視野の狭い人間だからですかね。ミーハーな人が本当に羨ましいんですが、マス受けするものより、ニッチなものが好きで。休日は仏教の本を読んだりしてますし…。だから、自分の価値観を信じて掘っていくだけだと、世の中とどんどんずれていってしまう。
僕はよく「大通りを歩く人たちと仲良くする」と言っているんですが、ほおっておくと狭い路地を突き進んでしまうので、世間で話題のものを喜ばしく受け取って楽しんでいる、大通りを歩く人たちの空気を吸うように心がけています。
でも、大通りの空気感をわからなきゃ、知らなけゃと思っているうちは、結局わからなくて。近所に行きつけのバーができて、そこの常連さんたちと一緒にバカ騒ぎしたり、フットサル大会に出たりするようになってから、そういう気分をまとったアイデアが自然と出せるようになった気がします。頭でっかちに考えるのではなく、身体と心を通して、自分も大通りの”感じ”を心から一緒に楽しむことが何より重要なんだと思います。
アイデアを考える行為は根本的に身体性が高いものだと思っているので、考えすぎはよくないですね。きちんと生活を楽しみながら、たまにふと、人ってなんなんだろうと考えることが大事なのかなと思います。
――本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
【訂正】記事初出時より、鈴木雄飛氏の肩書とプロフィールを修正しました。訂正してお詫びいたします。
電通クリエーティブプランナー→電通コミュニケーション・クリエイター
(2024年7月2日13:00 書籍オンライン編集部)