日本国内での臓器提供数は
なぜ世界最低水準なのか

 一方で、遅々として進まない日本の臓器移植の現状を、身をもって知った。

 臓器移植を受けたいと願い、日本臓器移植ネットワークに登録して待機している人は約1万6000人に上る。しかし、亡くなった方からの臓器提供数は例年100~150例程度にとどまり、国内の脳死患者からの臓器提供は、2023年10月に1000例を超えたばかりだ。それを可能とした臓器移植法の施行から実に26年かかった。平均待機年数は心臓で5年、腎臓は14年をそれぞれ超え、待機中に亡くなる患者も少なくない。

 それゆえ、近しい人から臓器の提供を受ける生体移植が増え、合計で年間2000例を超える(2021年)。人口100万人当たりの脳死などによる提供者数は0.88人で、世界最低水準にある。スペインは46.03人、米国は44.50人、韓国7.88人に上り、日本は海外と比べると遠く及ばない(2022年調査)。あまりにも大きな差に疑問を覚え、「記者としてできることがあるのではないか」と臓器移植取材をライフワークに据えて、試行錯誤を重ねている。

 とりわけ力を入れているのは、臓器移植に関わるさまざまな立場の方から経験を伺い、文章に紡いで社会に伝えることだ。事故で亡くなった女性の臓器提供を決断されたご家族、亡くなった方から心臓移植を受け、その心臓と“二人三脚”で人生を送る方、私と同じように生体腎移植を受けた腎臓内科医、国内の臓器提供数の少なさから海外渡航に望みを託した女の子のご家族、心臓移植がかなわず命を落とした男の子のご家族、臓器移植と関わりが深い移植医や救急医、脳外科医……。話に耳を傾けるたび、臓器移植が置かれた立場の厳しさを再認識する。