臓器移植は他人事ではない
日本の理不尽な現状に一石を

 臓器提供の意思表示をしている人の少なさも気にかかる。2021年の内閣府世論調査によると、提供したい人が約4割に上ったのにもかかわらず、実際に意思表示をしている人は1割程にとどまる。

 これらは、臓器提供数が伸び悩む要因の一つとなっている。臓器移植を望む人と臓器提供を望む人、双方の思いを遂げられない日本の現状は理不尽に思える。

「日本だから(移植を受けられず)助からない」「日本だから臓器提供できなかった」――。そんな状況を変えるべく、原稿を一本でも多く書いて社会にボールを投げ続けるしかないと気力に満ちている。この体験記を書いたことも、その試みの一つだ。「自分の体験を記せば、同じ病で苦しんでいる人の役に立てるかもしれないし、臓器移植に思いをはせてくれる人が1人でも増えるかもしれない」と考えたのだった。

 腎移植のレシピエント(編集部注/臓器移植を受ける人)の先輩に出会う機会も増えた。特に世界移植者スポーツ大会の水泳競技で世界記録を次々塗り替えている若松力さんとの出会いは、私の人生にとって大きな意味を持った。ドナーであり、パーキンソン病と闘う若松さんの妻、恵子さんの生き方や言葉にも、心動かされた。紹介してくれたのは、多忙な仕事の合間を縫って移植者スポーツの普及に心を砕く丸井祐二医師だった。

「臓器移植で大切なのは手術後をどう生きるか。私は倉岡さんの人生が充実するよう、サポートします」と言ってくれ、私たち患者一人一人と家族のように向き合ってくれる。誘い入れてもらった、丸井医師を慕う患者の会「丸虎会(まるとらかい)」は、私の活力源になっている。

「健康な時とは体が違います。体力の回復にも時間がかかります。体と仕事のベストバランスを探って、新たな記者像を打ち立てましょう」

 丸井医師の言葉は、そのまま私の人生の目標になった。