潜在的なドナー候補数を把握し
臓器移植の支援を広げることが重要

 臓器提供は人の死が前提だ。「臓器を提供したい」との意思には亡くなった人、あるいはご家族の「病気で苦しんでいる誰かに、生きてほしい」との願いが込められている。

 そんな「究極の優しさ」も、必ずかなえられるわけではない。

 日本では、臓器提供体制の不備が深刻な問題として横たわるからだ。臓器提供が可能な医療施設は約900にとどまり、そのうち提供体制が整っている施設は約430にすぎない。それ以外の病院に運ばれて脳死状態となった場合、臓器提供を望んでもかなわないのだ。

 そのような状態を打破する対策も進んでいる。臓器提供の経験が豊かな拠点施設が経験の少ない施設を支援する地域連携が一部で行われているのだ。

 また、厚生労働省は2023年、患者と家族が体制の整っていない施設で臓器の提供を望んだ場合、別の施設へ転院搬送する仕組みを一部地域で試験的に導入した。同省はこれまで、搬送は患者への負担が大きいため「控えるべき」との見解を示してきたが、ようやく重い腰を上げた格好だ。

 また、脳死が強く疑われ、臓器提供の可能性がある患者の情報を、医療機関が拠点施設や日本臓器移植ネットワークと共有する体制作りにも前向きである。潜在的なドナー候補数を把握して国や日本臓器移植ネットワークが支援に動くことで、臓器提供の促進を目指す試みだ。いずれも軌道に乗り、早期に制度化されることを望む。

 そして、臓器提供の意思を医療機関が掬いきれていないことも問題だ。脳死や心停止での臓器提供意思を確認することが必須ではなく、入院する病院や医師の裁量に任されているのだ。病院と医師にかかる負担があまりにも大きく、意思を確認しない例も少なくない。