そんな日産の“やんちゃ娘”も、2代目、3代目……とモデルチェンジを重ねるにつれ、そのイメージもいつしか洗練され、2022年、最新型となる7代目となった今、松尾のような若きドライバーからは、「淑女」と称されるようになった。
事実、最新型のZは、松尾をはじめ試乗した者たちに言わせると、スポーツカーとはいうものの、冷静に考えるとその居住性は高級セダンと遜色のないものだという。そうだとすると、ただ走るだけの車ではない。
Zはいつしか大人の車へと変貌したといえよう。
“やんちゃ娘”からレディへと変貌
国産スポーツカー「栄光の技術力」
出始めこそ“やんちゃ”な一面が目立ったZだが、歳月を重ねるにつれ洗練された大人のスポーティーなラグジュアリーカーへと変わっていくそのさまは、どこか映画『マイ・フェア・レディ』の花売り娘イライザがレディへと変わっていくそれと重なって見える。
その間、日本の自動車業界は1874年の環境庁による「自動車排ガスの量の許容限度」の告示で、世界一厳しいと言われることになる排出ガス規制を決定した。欧米の車に比して、日本の車はもろに規制の波を受けていると言われる所以である。松尾は言う。
「数々の規制の枠の中で、Zのような本格的なスポーツカーを今の時代に世に出せる――この日産、ひいては日本自動車業界の技術力とその努力に敬意を表したい」
根っからの車好きである松尾はこう語ると、日産、そして国内では例年のごとく登録車シェア1位を占めているトヨタ自動車の両社について音楽家らしく、こう喩えた。
「トヨタさんはバッハです。彼は『G線上のアリア』をはじめとする数多の楽曲を作曲しています。でも、バッハという人物にスポットが当たりすぎるがゆえ、彼の作曲した曲となると、世の人はちょっとピンと来ないのではないか」
自動車メーカーとしてのトヨタ自動車は世の大勢の人が知っている。そのトヨタが世に出した車は、トヨタというメーカーの個性で統一されており、個々の車の個性を表に出していないという意味である。