「ときにお淑やかに、ときに激しく」
『マイ・フェア・レディ』を体現したようなクルマ

「まるで淑女とステップを踏んでいるよう…」クルマ好きの若手作曲家を陶酔させた、最新フェアレディZの乗り心地【試乗記】「Z」のエンブレムが光るコックピット。車内も初代Zをオマージュしているものの、実際に運転した松尾によると、「令和のスポーツカー」だとか

 この「美しいお嬢さん」を意味するフェアレディという言葉を耳にすると、すぐさまオードリー・ヘプバーン主演の映画『マイ・フェア・レディ』を思い浮かべる向きもいるだろう。言語学者ヒギンズ教授が、下町生まれで粗野で品のない言葉遣いをする花売り娘イライザをレディに仕立てていくというあまりにも有名なストーリーは、フェアレディの名を持つZにも当てはまるようだ。松尾は音楽家らしい喩えでその様をこう話す。

「運転していて……、まるで淑女と踊っているような感じです。でも、ときにお淑やかに。ときに激しく。成熟した大人の女性を彷彿とさせます」

 今回、松尾が試乗したのは、近頃その乗り手がめっきり減ったといわれるMT(ミッション)車だ。ギアの変則を運転者の意思で切り替えられ、「マニュアル車」とも呼ばれるMT車は、今や自動的にギア変則するAT(オートマ)車に比べて、その占めるシェアは圧倒的に少ない。

 自動車業界関係者たちによると、おおむね国内だと98%がAT車で、MT車はわずか2%に過ぎないというのが通説である。

 運転操作が容易とされるAT車とは異なり、複雑な操作がMT車には求められる。それでもMT車を駆る乗り手が居続けるのはなぜか。自動車業界関係者のひとりは、「人の意思が車へダイレクトに反映されるからだろう」という。

 そして、この自動車業界関係者曰く、「人の意思を受けたMT車は、やがてMT車自らが意思を持ち始める。この車と人の意思がぶつかりあう瞬間が、とても面白い」のだとか。松尾もまたそうした感覚をZから感じたようだ。

「ギアをチェンジする際、まるでステップを踏んでいるかのような感覚に陥りました。それこそ“フェアレディ”と踊っているような感覚です」

 こう語る松尾はZという車をフレデリック・ロウ作曲の『踊り明かそう』に喩えた。ミュージカル『マイ・フェア・レディ』の挿入歌といえば、ピンとくる向きも多いのではなかろうか。

 それにしても1969年の初代Zが世に出た際、人々のZに抱くイメージは、まさに映画の「フェアレディ」そのもの。車好きの今日で言う“やんちゃ”な人が乗る車だったという。