現代の怖い話の質的変化
~おとぎ話から実話ベースへ

 OKOWAは2018年に、「事故物件住みます芸人」として活動する、松原タニシ氏の発案で始まった。ルールを明確にした対戦形式で怪談コンテンツの新境地を開拓し、怖い話のファンを中心に多くの支持や関心を集めた。

 なおOKOWAでは、人怖(実在する人間の狂気などを語るもの)や都市伝説といった、あらゆるジャンルの怖い話の総称を「怖談(こわだん)」と名付けている。

 深川さんは昨今の怪談人気について「怪談自体が『おとぎ話』的なものから、体験ベースの『実話怪談』が主流になったために共感を呼んでいるのでは」と話す。

 個人的に興味があったのは、熱心に怪談師グッズを集めるファンがいることだ。深川さんはYouTuberなどと比較して「地下アイドルがより近い存在かもしれない」と指摘。確かに納得感がある。テレビ番組空白時代のネット上のうごめきや、怪談バーというアンダーグラウンド感のある活動拠点がある点は、地下アイドル市場に重なる印象があった。

 最後に読者へ、怖い話の楽しみ方を提案してもらった。

「自分に合う怪談や怪談師を見つけるのはアリだと思います。例えば『怪談説法』の三木大雲さんは、最後は仏教の教えにつながるので、安心して聞けます。深津さくらさんは声と語りが癒やし系なので、怪談ですが優しい気持ちになります(笑)」(深川さん)

酷暑とAIの時代は怪談にとって追い風か

 筆者は過去の記事で「女性が読むコミックエッセイ」を取り上げたことがある(参照記事)。今回の取材を通じ、怪談にもそれと共通する構図があることに気づいた。

 画面の向こうには常に「リアルな体験談を持つ人」と「体験談を知りたい人」が一定数おり、その間をつなぐ存在として、個性豊かな怪談師やコミックエッセイ作家が次々と登場・活躍するのだ。

 またこれはあくまでも主観だが、年を重ねてから突然怪しい陰謀論などにハマってしまう人がいる一方、怪談をたしなむ人はそうした情報とも適度な距離を保てるのでは? と想像する。

 実話ベースの怖い話を楽しむには、「見えないもの」と上手に付き合うバランス感覚や、適度に人を疑って「本当にヤバい人は誰なのか」を見極める能力も必要だからだ。

 日本では年々夏の暑さが増している。また生成AIでは提案できない、個人の「体験」や「感情」の価値が高まっていくことが予想される。酷暑とAIの時代は、もしかすると怪談にとって追い風なのかも知れない。

 時代に合わせて進化する多種多様な怪談に触れ、‟味わい”を求めてみてはいかがだろうか。