図4-2-2は、支出から国債償還費を除いたものである。これを見ると、1999年度以降とリーマン・ショック以降、ワニの口はずいぶんと閉じていることが分かる。

 さらに、借金は自分の所得と比べるべきである。年収500万円の人の500万円の借金と年収1000万円の人の500万円の借金は意味が異なる。だから、国の借金は、国全体の所得、GDPで割るべきである。それを踏まえて作成したのが図4-2-3である。

 この図では、ワニの口はさらに閉じている。わずかながらも分母が大きくなっているので、財政赤字は実質的にはさらに縮小している。

 ちなみに、ワニの口、すなわち「歳出-国債償還費」-「税収」の対GDP比は、2009年度のマイナス10.0%(過去最悪の数字)から、18年度にはマイナス4.2%と5.8%ポイントも改善している。うち、5%から8%への消費税増税によって改善した分は1.5%ポイントにすぎない。

 なお、2019年度で比べていないのは、19年10月に消費税を10%に増税したにもかかわらず税収が減少し、赤字も拡大しているからである。消費税増税による消費減の影響が表れていたのかもしれない。

 もちろん、2020年度以降は財政状況が大幅に悪化しているが、コロナショック対応で財政支出が拡大するのは、ある程度は避けられない。

「金融緩和が財政規律を緩める」
財政学者たちの奇妙な理論

 財政を改善する金融緩和政策が、財政拡大の誘因となり、むしろ財政規律を緩めると主張する財政学者、エコノミストも多いのだが(たとえば河野龍太郎『成長の臨界「飽和資本主義」はどこへ向かうのか』288─289頁、慶應義塾大学出版会、2022年)、奇妙な論理である。

 財政改善が財政規律を緩めるなら、増税で財政状況が改善しても、財政支出拡大の誘因が働くはずだ。実際、消費税増税時は、増税のショックを和らげるためとして、さまざまな財政拡大措置がなされることが多い。

 分母(名目GDP)を拡大させ、景気拡大による増収があれば、財政再建が楽になるというのは全く当たり前のことだと私は思うのだが、ほとんどの経済学者がこの方法を否定している。彼らは、安倍政権が現実になし得たことを見ていないのである。