次の年のフジロックのヘッドライナーを
探し始めるタイミングは?

――ここからは、ブッキングについていろいろと教えていただきたいと思います。平田さんは、SMASHにはいつ入社したのでしょうか。

平田氏SMASH(フジロック主催)の平田天志氏 Photo by H.K

 2017年です。その前は、新木場(東京都江東区)にあったライブ・イベントスペースの「STUDIO COAST」を運営する、マザーエンタテイメントという会社にいました。

――クラブイベントの「ageHa」が行われていたところですね。そちらではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

 初めは、会場の清掃をしたりバーで働いたりして、次第に舞台の管理を行うようになりました。スタジオコーストは、ライブやイベントの主催者に会場を貸す形となるため、音響や照明は、(会場側のスタッフではなく)主催者側がスタッフを手配する「乗り込み」となります。そのため、会場側ができることや設備などをお伝えする役割ですね。その後、フジロックを主催する音楽プロモーター会社のSMASHに入社しました。

――SMASHではどのような業務を担当されているのでしょうか。

 ツアー制作を中心に行っています。ツアー制作とは、海外アーティストを招聘(しょうへい)したり、日本のアーティストのツアーを組んで帯同したりすることです。フジロックのような音楽フェスティバルのプロジェクトにおいては、ブッキングチームの一員として行動します。

――フジロックの出演アーティストは、いつぐらいから話し合われるものなのでしょうか。

 フジロックは毎年7月に開催しているのですが、ヘッドライナーを探し始めるのは、その約1年前からです。

――フジロックが開催されている頃には、もう次の年のフジロックのヘッドライナーをイメージしているのですか。

 そうですね。どのアーティストに当たってみようかという目星は付けています。

――ブッキングのチームは何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか。担当者の好みが色濃く出そうですが、どのようにして多種多様なアーティストをバランス良くブッキングするのでしょうか。

 ブッキングは約10人で考えています。おもしろいことに、メンバーそれぞれ、好きな音楽がバラバラなんです。「このアーティストにどうしても出てもらいたい」という強い思いがおのおのにあり、それがうまくハマっていって、結果、バランスが取れたりします。

 ブッキングにはいろいろなパターンがあり、ブッキング担当者がそのアーティストが大好きで、ずっとオファーをし続けることもあれば、アーティストのエージェントから「この時期にアジアツアーを行う予定だけどフジロックに出られないかな?」「うちでこういうアーティストがいて、フジロックに良さそうだよ」といった売り込みがあったりします。

――世界中でそうしたコネクションがあるのですね。

 ありますね。それに、タイミングも重要だったりします。アルバムを出すタイミング、活動再開のタイミング、再結成や周年のタイミングなどです。

――10〜20代前半に人気のアーティストは、どのようにして情報をキャッチするのでしょうか。

 海外の音楽フェスをチェックするなど、そこはアンテナを張って情報収集しています。私たちがツアー制作をしているアーティストから直接、「あのアーティストは今、若い人たちからとても人気だよ」と評判を聞いたりすることもあります。

200以上のアーティストの
タイムテーブルは難解なパズル

――タイムテーブルの流れはかなり重視されているかと思います。

 そうですね、特に前後はかなり考えます。

――音楽フェスって、見たいアーティストがけっこうかぶってしまったりするのですが、それはあえてそうしている部分もあるのでしょうか。

 いえ(笑)。極力、同じジャンルのアーティストがかぶらないように考えています。でも、やむを得ないこともあるんです。タイムテーブルをパズルしていくと、ホワイトステージのこの時間帯しか出られないとか、翌日、韓国へ行くので、移動時間を考えるとこの枠しか出られないとか。でも、できるだけ調整はしています。

――これだけの数の出演者がいて、音楽の流れも考え、個々のアーティストの事情や移動時間、客層も考えてとなると、相当なプロジェクトマネジメントのスキルが求められそうです。

 そこにはかなり時間を要しています。年明けの1月から5月ぐらいまでは、ずっとそのパズルに向き合っています。

――どこかのピースが急に落ちると、また作り直したりもあるわけですよね。

 その通りです。

――ブッキングの担当者はステージごとに異なるのですか。

 ブッキングチーム内で、ステージごとに担当者が分かれています。ステージごとに何度かディスカッションをして、その後、全体の流れを調整していきます。

――ヘッドライナークラスのライブになると、毎回、ステージのセットが圧巻ですが、これらに関わるクルーたちも皆、来日するのですか。

 基本的にそうです。ヘッドライナークラスだと、70〜80人のスタッフがいたりします。

――手配があまりに大変そうですが……。

 移動から宿泊まで、日本に到着してから出国するまでの手配は、すべてやっています。もうドタバタですよ(笑)。

――素朴な疑問ですが、羽田空港や成田空港に到着後、アーティスト一行はどのようにして苗場に向かうのですか。送迎担当のスタッフがいるのでしょうか。

 いえ、専門の業者さんを手配します。車か新幹線で送迎していただきます。