ブッキング担当者が
「呼べて良かったな」と感じる瞬間
――フジロック開催中はほとんど寝られていないですよね。朝までオープンしているエリアもありますし。
そうですね(笑)。ヘッドライナーが終われば、次の日の朝まで翌日のヘッドライナーの仕込みがあります。ブッキング担当者は各アーティストと帯同しますので、朝7時に苗場に到着するアーティストもいれば、深夜1〜2時に苗場を出るアーティストもいて、開催期間中は三日三晩、常に動いています。
――アーティストがきちんと来日し、無事に苗場に到着し、公演を終えるまで、気が気ではないですよね。フジロックが終わったらやはりぐったりしますか。
毎年、燃え尽き症候群がやってきます(笑)。その年のフジロックが終われば、すぐにまた来年のフジロックの準備がスタートします。
――ブッキングで一番、苦労することは何でしょうか。
音楽フェスは世界中で行われているので、目当てのアーティストがいても、別の音楽フェスと競合してしまうときがあります。米国の大きな音楽フェスを優先されそうになったり。そのとき、エージェントと交渉を行うのですが、その交渉はやはり毎回、苦労しますし、結果がわかるまでは緊張感があります。あとは円安ですね。海外のアーティストはとにかく費用の面が大変で、円安はかなり影響を受けています。
――アーティスト側に支払う額が跳ね上がっていることは予想できます。
これだけの数のアーティストがいてそれぞれにスタッフもいるため、その費用を全体の数字で見たときに、円安の影響は計り知れないものがあります。少しでも変動があると、せっかくつくった予算がまたつくり直しになってしまう。われわれにとって円安はいいことはまったくありませんね。
――最後に、ブッキングで一番、うれしいことは何でしょうか。
交渉していたアーティストの出演が決まった瞬間です。オファーし、「ごめん、やっぱりできないわ」というメールか、「決定したよ」というメールか、最後の判断でどちらが届くかというときに、後者のメールを目にした瞬間は、本当にうれしいです。
特に自分の好きなアーティストを追いかけていて決まったときは、感慨深いものがあります。交渉している人間というのは、実はそのアーティストの一番のファンだったりするんです。お客さんと同じか、もしくはそれ以上の熱量を持って、交渉しているはずです。
ライブが始まる直前は、客席とステージの間のエリアで、何か問題がないかチェックしているのですが、照明が落ち、いよいよライブが始まるというときにお客さんの大歓声を聞くと、「ああ、呼べて良かったな、実現して良かったな」と感じます。そしてすぐに客席へ行って、自分もライブを楽しみます(笑)。