なぜ老害化が進むのか、味付けが薄く感じるのは料理のせいではない

 Aさんのご主人のように、家庭内で、とくに奥さんに対して、わがままを言う男性は多くいらっしゃいます。

 その根底にあるのは、甘えと間違った愛情表現です。

 高齢者に限った話ではなく、「家族だから言える」「厳しく言うのは信頼関係があるから」「愛のない他人にこんな態度はとらない」という考えを持って家族に強く接している人は多いです。

「最近、味が薄いぞ」妻の料理に醤油をドバドバかける人が見落としている「危険なサイン」出典:医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)

 それが年を重ねるにつれ、「それをできるのが親しさの証」と思う傾向が強まるように感じます。

 でも、言われている側が同じように感じているとは限りません。むしろ、そうとらえてはいなかったり、それを迷惑に感じたりしている家族のほうが多いのではないでしょうか。

 料理の味が薄いと言って醤油をドバドバかけるのは、たんにわがままであるのに加え、別の理由も考えられます。

 それは、加齢にともなう味覚の変化です。じつは人間の味覚は、60代から変わってきて、味付けの好みが次第に濃くなることがわかっています(※1)。舌にある「味蕾(みらい)」という細胞の生えかわりが遅くなるのも、味覚が変化する理由のひとつです(※2)。

 そんな自覚のないAさんのご主人は、実際に味が薄いと感じ、「思ったことを素直に言えるほどの信頼関係を築けている」と信じて疑わない奥さんが相手だからこそ、その不満をストレートにぶつけているのでしょう。

 ただし、一生懸命作った料理に対して文句を言われた奥さんからしたら、たまったものではありません。

 カチンとくるのは当然で、いくらご主人にこれまでの感謝の念を抱いていたとしても、「そうかしら? そんなことはないと思うけど」程度の反論はしたくなるものです。

 ここでご主人が「ごめん、言いすぎたよ」と言えればいいのですが、そういうわけにはいかないですよね。だからこういう小さなバトルの積み重ねが、「家族の壁」をつくっていってしまうことになるのです。