周りの老害に配慮するコツ、実態と前提を知れば妥協点が見えてくる!?

「最近、味が薄いぞ」妻の料理に醤油をドバドバかける人が見落としている「危険なサイン」医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)

 逆の立場、すなわちAさん側から見ても、意識すべきことと改善のポイントはほぼ同じになります。

 ご主人が定年退職をして、以前よりもわがままになったり、不平や不満を口にすることが多くなったりと感じることもあるでしょう。相当なストレスが溜まっているかもしれません。

 ここで一方的に、その原因をご主人に求めないように、ひと呼吸おいていただけないでしょうか。言葉や態度とは裏腹の本心があるかもしれないことや、接触頻度の増加によって生じることや、加齢によって体に変化が起こることを理解してあげれば、受ける印象は変わってくると思います。

 わがままを言ったり、悪態をついたりしてくるのは、奥さんに甘えていて、愛情表現を間違って解釈しているから。最近その度合いが高まっていると感じるのは、接触頻度が激増したから。料理の味付けにけちをつけてくるのは、加齢により味覚が変化したから。

 これらの情報が頭にあれば、「仕方がないわね」と思える瞬間が今よりも格段に多くなるかもしれません。

塩分量を変えずに塩気を感じさせる奥の手

 とりわけ料理については、工夫する余地がたくさんあります。

 味付けは、ご主人に言われるがままにしょっぱくしてしまうと、高血圧をはじめとする生活習慣病になるリスクを高めるのでやめましょう。

 そのかわりに、味の濃いものと薄いものを織り交ぜるなど、アクセントをつけると効果的です。一食あたりに使用する塩分量は同じでも、全体的に通常より塩気が多く感じるようになります(※4)。

 また、高齢者は塩分よりもグルタミン酸などのうまみのほうを2倍感じやすいので、だしを強めにとることもおすすめできます。だしのうまみが、塩分の代わりの役割を果たしてくれるのです。

 さらに、亜鉛が足りていないと味覚が悪くなるにもかかわらず、日本人の亜鉛摂取量が減っていることも判明しています(※5)。亜鉛が多く含まれる、卵、チーズ、牛肉、牡蠣などで不足を補いましょう(※6)。ほかには、料理の色合いをよくしたり、白いお米を黒い茶碗に盛るなど、食材を引き立てる色の食器を用いたりすると、料理をより美味しく感じることがわかっています(※7、8)。

 このように、料理全体の塩分量を増やさなくても、満足度合いを上げられるテクニックはいろいろあるのです。ご主人のためだけでなく、自分のためにもなるので、できる限りのことを試してみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
1)冨田寛:味覚障害の疫学と臨床像 日本医師会雑誌 2014; 142(12): 2617-2622
2)福永曉子ら:マウス有郭乳頭における味細胞特異的タンパク質の発現および分裂細胞の動態のライフステージによる変化 日本味と匂学会誌 2003; 10(3): 635-638
3)Schiffman SS: Taste and smell losses in normal aging and disease. JAMA 1997; 278(16): 1357-1362(諸説あり)
4)近藤健二:嗅覚・味覚 耳喉頭頸 2012; 84(8): 552-558
5)厚生労働省 健康日本21(第二次)分析評価事業 主な健康指標の経年変化 栄養摂取状況調査 亜鉛摂取量の平均・標準偏差の年次推移
6)日本食品標準成分表2020 年版(八訂)
7)織田佐知子ら:照明の種類が食物のおいしさに与える影響 実践女子大学 生活科学部紀要 2011; 48: 13-18
8)永易あゆ子ら:料理と盛り付け皿の色彩の組み合わせが視覚に及ぼす影響 白内障模擬体験眼鏡による検討 日本調理科学会大会研究発表要旨集 2012; 24: 55