しかも、その1000の要因のうち、何が、いつ現実のアクシデントとなるかをわれわれは事前に予測することはできない。

 かくして、巨大プロジェクトでは「ほぼ確実に、予定外の何らかのアクシデントが発生する」のだ。

 これが、社会学者のチャールズ・ペロー氏が1984年に提唱した「ノーマル・アクシデント」の理論である。大規模な事業組織では、想定外のアクシデントがごくありふれた普通のこととして(Normal)起こることから、こう名付けられた。

 万博のような巨大プロジェクトの中では、私たちは、いついかなるトラブルが発生するとも予測はできない。爆発事故も、空飛ぶクルマの停滞も。

 だが、公費が投入されるようなプロジェクトでは、大きなトラブルは発生しない想定で予算が組まれ、工期が設定される。そうなれば、確率論的にも、人類の過去の実績的にも、90%以上の確率で予算超過し、工期は伸び、当初予定していた企画のうちのいくつかは、企画倒れに終わることとなる。

 われわれは今、歴史と理論が教えてくれている通り、“予想通りの予定外”が起こっている現実を見せられている。見えていたトラブルに際して、大人たちがジタバタしたり、言い訳したり、表面を取り繕ったりするという、乾いた笑いしか起こらない喜劇を目の当たりにしているのである。