お客様のことを知る努力をする
唖然としました。全部、お客様の言うとおりです。社員の方々が稼いだ大切なお金を使うという意識はなく、僕は機械的に「経費で落とせばいい」と言っていただけでした。
僕は素直に謝罪しました。「わかってくれたらいいんだよ」と、お情けで契約はいただけましたが、オフィスに帰る電車の中で自分の発言を後悔しました。
会社員の経費は全額会社から戻ってきますが、会社の出費になることには変わりありません。そのため「経営者にとっての経費」は僕たちとは認識が異なります。頭では理解できても、僕には経営の経験がありませんでした。
どうすれば「当事者意識」を持てるんだろう。考えた結果、出た答えは「自分も経営者になろう」でした。
ですがアメックスは副業禁止。そこで会社の人事担当者に相談したところ、事業規模ではない小規模の投資ならOKとのこと。そのなかで少しでも経営感覚が持てそうだと考えたのが、「不動産投資」でした。
当事者になって初めてわかることがある
不動産投資を始めたことで、初めて意味を理解できた言葉がいくつもあります。
たとえば、「融資」です。投資する決意こそしましたが、もちろん僕には現金で購入できるほどの財力はありませんでしたから、約2000万円の融資を銀行から受ける必要がありました。「融資」もお客様との会話のなかで頻繁に出てきた言葉ですが、このとき初めて、僕は「融資」が意味する重みを感じました。
「確定申告」も必要でした。でも税務署でもらった書類は意味不明です。売上を書いて、領収書をもとに支払った経費を記入して。その苦労がわかりました。僕みたいな小規模では経費算入の金額はごく僅かですが、規模が大きくなるほどその額は上がるため、「領収書」をほしがるお客様の気持ちも初めてわかりました。
何より、そもそも「売上」がなければ使える経費はかぎられています。売上があるから経費をかけることができます。この売上をつくっているのが、社員です。ここでようやく経費の意味と、それが社員の努力の結晶であることを思い知りました。
「体験から出る言葉」で伝えよう
この経験は経営者の疑似体験にすぎませんでしたが、少しでも当事者に近い経験をすることで理解を超えてお客様の気持ちを実感できました。
当事者になり、言葉の本当の意味を知ると、お客様との会話も変わります。もちろん「経費で落とせる」と軽々しく言うことはなくなり、逆にこんな言葉が出てくるようになりました。
「社長、ちなみに年会費は経費として計上いただけます。とはいえ、御社の大切な社員の皆様が稼いだお金を使わせていただくことにはなります」
営業としては言わなくてもよいことではあります。ですがお客様からは「そこまで考えてくれるなんて、他の営業とは違いますね」と、お言葉をいただけることが増えてきました。
知識として得ただけの言葉で話す人は、お客様に信頼されるどころか、かつての僕のように「何もわかっていないな」と呆れられます。
知識から出た言葉と、体験から出た言葉では、重みがまったく違うのです。
(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表。経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数、顧客満足度、ともに全国1位に。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。