「お客様を呆れさせてしまった、あるセールストークがあります」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元トップ営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、身につけた営業スキルをすべて捨て、リッツ・カールトンで磨いた目の前の人の記憶に残る技術を実践したことで、わずか1年で紹介数・顧客満足度全国1位になりました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』です。ガツガツせずに信頼を得る方法が満載で、「人と向き合うすべての仕事に役立つ!」「とても共感した!」「営業が苦手な人に読んでもらいたい!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、お客様が呆れる人の特徴を紹介します。
アメックス営業部の「キラーフレーズ」
それは冬の寒い日でした。
東京郊外にある建設会社の経営者を紹介いただき、訪問したときのことです。
社員は30人ほどで、お客様の話によると売上も右肩上がり。きっと契約をいただけるはずだと思い意気揚々と商談に臨んでいたのですが、意外にもお客様は倹約家で、「年会費〇万円か……」と悩んでいました。
こんなときのために、アメックスカードの法人営業には、あるキラーフレーズがありました。
「経費で落とせます」です。
法人カードを導入する際にかかる費用は年会費のみですが、1万円ほどのプランもあれば、カードのグレードや枚数によっては数十万円になることもあります。創業間もないお客様の場合、この年会費がネックになることが多かったのです。
そこで、事業用カードなので年会費は経費計上が可能だとお伝えすると、たいていのお客様は「経費で落とせるならいいか」と契約してくれました。お客様は「経費で落とせる」という言葉が大好きなんだと、当時の僕や同僚たちは信じて疑いませんでした。
黙り込む僕に放たれた「辛辣な指摘」
そこで年会費に悩むお客様に対して、僕は伝家の宝刀を抜きました。
「社長、ご安心ください。年会費は経費で落とせますから」
すると、資料に向いていたお客様の視線がこちらに向きました。僕はお客様と目が合い、こう言われたんです。
「福島くん、君は経費が何かわかっているのか?」
はじめは何を言われているのか、まったく理解できませんでした。だって経費は経費じゃないですか。
「会社のために使うお金で、使った分だけ利益を圧縮できて節税にもなるものですよね」
僕がそう答えると、お客様はふ~っと大きなため息。数秒後、こう言いました。
「たしかにそうだね。でも、その経費はどこからくるのか考えたことはある?」
経費はどこからくるのか……そんなこと考えたこともありませんでした。黙り込む僕に、お客様は諭すように教えてくれました。
「経費というのはね、元はうちの大切な社員たちが汗水たらして稼いでくれたお金なんだよ。だから経費で落とせるなんて軽々しく言われると、この営業は何も経営をわかってないと思っちゃうんだ」