タイセイヨウサケの例が分かりやすい。このサケは、体サイズが大きいほど卵を多く作れるので、メスは遅く成熟して、体サイズを大きくする遺伝型の適応度が高い。一方のオスは、速く成熟し、体サイズを小さくする遺伝型の適応度が高い。

 そして、この体サイズの違いには成熟年齢に影響するVGLL3という遺伝子が関与しているが、この遺伝子のヘテロ接合の遺伝型の適応度は、オスとメスを平均すると最も高くなる。

 それによって、この遺伝子のアレル変異が維持され、オスとメスとで体サイズの多型が維持されるのだ。

 このようなヘテロ接合の遺伝型の適応度が高くなるという超顕性は、遺伝的変異を維持する強力な要因である。

頻度の低いアレルが有利なケースも
淡水魚の口の曲がり方で証明

 これとは別に、自然選択によって変異が維持されるもう1つの重要なプロセスは、頻度の低い稀なほうのアレル(あるいは遺伝型)が自然選択で有利になる場合だ。

 つまり、頻度が低下すると、頻度を増大させる方向に自然選択が働くということである。稀なほうのアレルが頻度を増大させメジャーになってくると、今度は、一方の頻度の少ないほうのアレルが自然選択で有利になる。

 これは、アレルの頻度に依存して自然選択の働き方が変化するので、負の頻度依存選択と呼ぶ。

 この説明だけだとイメージしにくいかもしれない。そこで実際の例を見てみよう。

 アフリカのタンガーニカ湖に生息するカワスズメ科の魚(シクリッド)のなかに、泳いでいる魚の鱗を剥ぎ取って食べるスケールイーター(Perissodus microlepis)という魚がいる(図表2-6)。

図表2-6:スケールイーター同書より転載 拡大画像表示

 この魚では口が右に曲がっている個体と、左に曲がっている個体がおおよそ1:1の割合で存在している。右に曲がるか左に曲がるかは、1つの遺伝子の遺伝型によって決まっている。

 口が右に曲がっている個体(左利き)は、泳いでいる魚(獲物となる別の種の魚)の後方から左側の鱗を剥ぎ取って食べようとするのに対し、左に曲がっている個体(右利き)は右側の鱗を狙う。

 そして、集団のなかで左利き個体が増えてくると、鱗を取られる魚は左側をより警戒するので、右利き個体に対しての防御が弱くなる。そのため、今度は右利き個体が、より多くの餌にありつけることになる。