つまり頻度の少ないほうの個体がより多く餌を採ることができるために、負の頻度依存選択が働くのである。※編集部注:負の依存選択=頻度が低いものが集団の中で何らかのメリットを受けるというもの

生息環境が異なる場合の遺伝的変異
空間的な差以外に交配の様式も深く関係

 ある個体が経験する異なる環境での適応度を平均したとき、ヘテロ接合の遺伝型の適応度が最も高くなる場合、遺伝的変異は維持される。

 しかし、実際にはうまい具合に平均適応度が最も高くなる(超顕性)とは限らない。

 アブラムシの例で考えてみよう。アブラムシは植物に寄生して、師管液を吸って生活する。

 ある限られた時期には、翅をもった個体が出現し、飛んで移動することができる。

 なかでも、エンドウヒゲナガアブラムシには寄生できる植物として、アルファルファ、レッドクローバー、エンドウなどがある。

 そして、異なる植物に寄生するエンドウヒゲナガアブラムシを比べてみると、ゲノム上の複数の位置にある異なるアレルが、寄生先の植物の違いに関係していることが示されている。

 エンドウヒゲナガアブラムシという集団のなかで、異なるアレルが寄主植物の違いと関連して遺伝的変異が維持されているということである。

 つまり、生息地内の空間的な違いが、遺伝的変異の維持に寄与しているといえる。

 しかし、このエンドウヒゲナガアブラムシの例は注意が必要だ。生息地内の空間的な違いだけで遺伝的変異が維持されるわけではなく、交配の様式も関係しているからだ。

 アブラムシが、レッドクローバーとアルファルファのある環境で生息し、アルファルファで育ったときに有利な遺伝型(AA)、レッドクローバーで育ったときに有利な遺伝型(RR)があるとしよう。

 このとき、どの寄主植物で育ったかと関係なくランダムに交配し、遺伝型RRの個体の平均適応度が、遺伝型RAや遺伝型AAに比べて、集団のなかで最も高くなってしまうと、遺伝型AAの個体がアルファルファの環境でたとえ有利であっても、Aアレルは集団から消失する。

 アブラムシが、どの植物で育ったかに関わりなく、自然選択によって有利なRアレルが増加し、やがて遺伝的変異がなくなってしまうのだ。

 つまり、生息地のなかに異なる環境があったとしても、個体がランダムに交配している場合、遺伝型RAの平均適応度が高くならない限り、それぞれの環境の適応に貢献するアレルが集団内で維持されることはないのである。