変異を保つため自然選択が働く仕組み
ヘテロ接合型の個体がもっとも有利に

 変異が維持されるように働く自然選択が平衡選択(balancing selection)だ。そのメカニズムの1つが、ヘテロ接合の遺伝型が自然選択で有利になる場合である。これは超顕性(超優性)と呼ばれる。

 超顕性によって、遺伝的変異が維持される例を見てみよう。GアレルとAアレルの一塩基変異サイトがあるとする。※編集部注:変異サイト=集団内で変異(異なるアレルが存在する)のあるゲノム上の位置

 環境Aで、それぞれの遺伝型の適応度は、図表2-5のようにGG>GA>AAである。一方、環境BではGG<GA<AAとなる。

図表2-5:顕性逆転による限定的超顕性の例同書より転載 拡大画像表示

「環境AではGGが有利で、環境BではAAが有利である」という条件だけでは、GアレルとAアレルは、集団中で維持されない。

「それぞれ別の利点をもっているという理由だけで、異なるタイプが維持されているということはない」ということだ。

 GアレルとAアレルが維持されるためには、ヘテロ接合の遺伝型の個体の平均適応度が最も高くなる必要がある。

 ここで、個体は一生の間に環境Aと環境Bを経験し、それぞれの環境で繁殖し子どもを残すとしよう。この場合、その個体の適応度は両者を平均したものとなる。

 つまり、適応度の大小関係がGG<GA>AAとなり、ヘテロ接合の遺伝型が最も高くなるだろう(図表2-5)。超顕性と同じように、GとAというアレルは、集団中に維持されることになる。

 このように、異なる状況で、平均するとヘテロ接合の遺伝型の適応度が最も高くなる場合を限定的超顕性(marginal overdominance)と呼ぶ。

 さらに、平均的な適応度がヘテロ接合で高くなるという限定的超顕性は、生物個体が異なる環境を経験する場合だけではない。オスとメスで、遺伝型が及ぼす影響が異なる場合も当てはまる。

 たとえば、遺伝型GGの個体は体が小さく、AAの個体は大きいとしよう。このとき、オスの適応度は小さいほうが高く、逆にメスの適応度は大きいほうが高くなっている場合がある(図表2-5)。