さらにデルタ航空では、機内にあるすべてのシートスクリーンをスマートスクリーンに変えようとしています。スマートスクリーン化により、顧客は動画ストリーミングサービスなど、好きなものを好きなときに見ることができるようになります。現在はスマートスクリーンが搭載された機体が約100機飛行しており、今年末までには、国内線のほとんどの機体で使用可能になる予定だそうです。

 デルタ航空は長期的な投資やプロジェクトにも積極的に取り組んでおり、現在はアドビと協力して、AIの分野で新たな取り組みを進めているとのことでした。

変革のカギはデータのデジタル化と
統一データ基盤の構築

 デルタ航空とMLBのマーケティング戦略の例は、デジタルおよびデータを活用したものですが、こうした取り組みは生成AIによってさらなる進化を遂げていくでしょう。ターゲティングに基づくキャンペーン告知に使われるクリエイティブは、生成AIで自動生成されるようになり、キャンペーンの効果測定結果に基づき、生成AIが生成したキャンペーン内容は見直され、次の施策に生かされます。

 変革を進めるものとして、MLBのマリナック氏は次の3つを挙げています。

1. 変革のための鍵となる基盤は、あなたの顧客/ファンに耳を傾けることである
2. 大きな変更は徹底的にテストして、それが正しいものであることを確かめる
3. 意味のある変革を行う目的と利益を理解してもらうために、主要な関係者を教育する

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 AI、特に生成AIはAdobeサミットでも大きなテーマとして取り上げられていましたが、日本はその活用においてまだ遅れている現状があります。

 AIや生成AIを活用するには、その前提としてデータのデジタル化と蓄積、活用が重要になります。さすがにマーケティングのデジタル化は進んでいますが、日本企業の多くはマーケティング活動がサイロ化しており、カスタマーデータプラットフォーム(CDP)などの統一的なデータ基盤が構築されている企業はまだ少ないようです。

 データをデジタル化し、統一したデータ基盤を構築することは重要です。ある日本企業では海外の先進的な企業を買収・提携して海外で事業を展開していますが、日本ではデータのデジタル化が進んでいないため、サービス展開が難しいといった状況があるといいます。

 海外の先進企業では、データを蓄積し、統合して活用しています。AIによる予測をもとにオペレーションを効率化し、さらにデータを蓄積するといった、データ活用のサイクルが確立されているのです。

 マーケティングに限らず、日本企業がデータ活用を進めるには、データのデジタル化と統一データ基盤の構築は不可欠です。これらをまずは実現することで、大リーグやデルタ航空の事例のような、デジタル化による恩恵を得る可能性も出てくることでしょう。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)