「子どもは褒めて伸ばそう」と言われるようになって久しい。しかし、中には「褒めてもイマイチ子どもの反応が良くない」という人もいるのではないだろうか。もしかしたら、それは褒める前のマインドセットに問題があるのかもしれない。10年連続で算数オリンピック入賞者を輩出している彦根市発の知る人ぞ知る塾「りんご塾」。その塾長である田邉亨氏は子どもを褒める際にどんなことを大切にしているのか。本記事では、田邉氏の初著書『「算数力」は小3までに育てなさい』をもとに、その理由を解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

「算数力」は小3までに育てなさいPhoto: Adobe Stock

親子の間に上下関係を持ち込んでいないか

「子どもは褒めて育てよう」。

 かなり一般的になった子育て論だが、その理由としては「自己肯定感が上がる」「挑戦する子に育つ」などが挙げられる。

 しかし、子どもが前向きな気持ちになるように褒めるのは、意外と難しいと感じている人もいるのではないだろうか。

 また、褒める要素をうまく見つけられず、つい小言ばかり言ってしまう親もいるに違いない。

 子どもに対して、一体どんな声かけをするのが良いのだろうか。

 田邉氏は、声かけをする上での大前提として「自分の子どもに対して『この子はすごい!』と、尊敬の念を持つこと」と指摘し、その理由を「子どもは、自分を見下している人の言うことは聞かない」からだと語る。

例えば、子どもを指導するアルバイト学生でも、どんな問題でもスラスラ解ける頭のいい学生が指導するよりも、「キミは本当にすごいね。僕はこんな早く解けないよ」と、子どもを尊敬する学生が指導するほうが、子どもは伸びます。(P.120)

 あなたが子どもをうまく褒められない、褒めても子どもの反応が良くないと思うのであれば、どんなスタンスで子どもを褒めているか、自分を振り返ってみてほしい。

伸びる子の家は、決して上司と部下のような関係性ではありません。上下関係ではなく、一緒に手をつないでゴールを目指すような、横並びの関係にあるのです。(P.120)

大事なのは「子どもだった自分」の目線

 子どもが小さいと、親は子どもに対して「してあげること」が多くなる。そのため、子どものことを「すごい」と思うのがなかなか難しい人もいるだろう。

 そんな場合には、田邉氏は「自分の年齢を下げて、子どもと同じ目線に立つこと」と助言する。

大切なのは、「今現在、大人になった自分」が子どもを評価するのではなく、「昔、子どもだった自分」にタイムマシンに乗って戻ったつもりで子どもに接することです。そうすればおのずと、「この子はすごいな」という気持ちが湧いてきます。(P.121)

 大人から見ると、子どもたちのしていることは「できて当たり前」。

 でも、その気持ちが透けて見えると、どんな褒め言葉でもなかなか子どもたちには届かなくなってしまう。

子どもと張り合ってはいないか考える

 ただ、中には「自分が子どもの頃はもっと努力したし、もっと出来が良かった」と主張する人もいるだろう。

 そんな優秀な人から見ると、自分の子ども時代と同じ目線で比べたとしても、わが子のミスが目立って感じられることもあるのかもしれない。

 そんな人に、田邉氏はピシャリと「子どもと張り合うのはやめましょう」と指摘する。

ここは大人であるあなたが、大人になってください。親の使命は、子どもの良いところに気付き、褒めて、伸ばしてあげることです。(P.121)

 確かに、大事なのは「自分と比べてこの子がどう」ではなく、目の前の子どもが伸び伸びと学び、勉強を楽しむ心を育むことだ。

 もし、頭の片隅で子どものことをジャッジしている自分に気が付いたなら、一度自分のマインドを見直してみるといいだろう。

 そうすれば、きっと子どもにかける言葉やその際の感情も今までのものとは変わってくるに違いない。