また、生活リズムの乱れも便秘につながる。とくに小中高の受験生は、塾通いで夕食が遅くなり、就寝時間が後ろ倒しに。翌日は朝寝坊をして朝食を食べずに学校に行くという生活を送る学生は、便秘リスクが高いという。
「私たち人間は、朝食を摂ると『食べ物が口に入った』という信号が脳に送られ、大腸に排便を促します。そのため、朝食を抜くと生活のリズムが崩れるうえ、お通じのタイミングもズレてしまうのです」
朝食は、一日のはじまりを告げる重要な食事なのだ。さらに「便意を我慢しすぎるのもNG」と伊藤氏は話す。
「学校に行くと、便意を我慢してしまうお子さんがとても多く、小児科医学会でも問題視されています。授業中にトイレに立つ恥ずかしさや、過去にからかわれた経験から、学校で大便をすることに抵抗があり、我慢しすぎて便秘になってしまうのです。朝食を摂って生活リズムが整えば、朝、自宅にいるあいだにお通じがあるので、学校で便意に悩みにくくなるはず。そうした意味でも、朝食を食べるメリットは大きいですね」
せっかくの便意をムダにしないよう、生活リズムの改善は必須だ。
過度な食事制限は
便秘の原因になる
生活リズムの乱れのほかにも、便秘の原因は潜んでいる。
「水分不足は、便を硬くして排便しにくくなるので、適度な水分補給を心がけましょう。また、やせ願望があり、食事量を抑えている子や、そうした願望とは関係なく極度に小食・偏食のお子さんも、便秘症に悩んでいます。先日、極度な小食偏食でお母さんに連れられて来院した5歳の患者さんも、重い便秘症になっていました。スムーズなお通じには、雑穀ごはんやしっかりとお肉を食べるなど、食事の“カサ”(量、重さ)を増やす必要があるので、お子さんの食事制限は避けてください」
便秘による腸内環境の悪化は、ニキビや肌荒れの原因になるため「過度な減量はかえって美肌を遠ざける」と、伊藤氏。とくに生物学上の女性は、内臓が便秘になりやすい構造になっているので注意してほしい、とのこと。
「友人関係や、受験のストレスも腸内環境を悪化させます。腸内環境が悪化するとお腹の不調を招くので、ストレスと便秘も無関係ではありません。受験のストレスで便秘になり、その影響で勉強に集中できない、と感じる学生さんも多いかもしれません」
便秘によって引き起こされるのは、前出の“集中力の低下”だけではない。腸内環境の乱れは、脳機能にも悪影響を及ぼすリスクがあるという。
「腸内に住む微生物叢が産生した代謝物(分泌したもの)は、神経と血液によって脳に運ばれます。これは“腸脳相関”と呼ばれ、腸と脳が密接に関わっていることを意味しています。もしも便秘などで腸内環境が乱れると、気分が沈んだり、不機嫌になったりとメンタル面にも悪影響を及ぼしてしまうのです」
また、伊藤氏は「脳の認知機能の高さには『腸内細菌の多様性』が関わっていることを示す研究が多く、近年ではこの分野の研究が進んでいる」と話す。認知機能はいうまでもなく、記憶力、判断力、理解力などを含む機能であり、子どもの学力にもつながる機能だ。
「人間の腸内には約1000種類、約100兆個の腸内細菌が存在しています。腸内細菌の種類が多い人ほど認知機能が高い、という調査結果もあるので、量だけでなく、多様性にも目を向けましょう」