具体的な数字を例に挙げながら、出来上がりのカレーに対して原材料の割合を考えてみましょう。

 いかなる食材にも水分が含まれます。ドライスパイスにも?もちろん。フライパンで乾煎りする前と後で重さを比較してみてください。ホールスパイスやパウダースパイスに含まれる水分はともかく、にんにくやしょうが、玉ねぎや肉、野菜、魚介類などには、水分が含まれています。それらは加熱によって飛びます。どの程度脱水しているかは、鍋の中の状態を見ればわかります。もっと具体的に知ろうと思うなら、重さを量ってみることです。

カレーの「おいしさの正体」とは?『食の事典シリーズ 調理科学×カレーの事典』では「いったい何がカレーをおいしくさせているのか」を徹底的にひも解いている

 玉ねぎの大2個(600グラム)をみじん切りにして炒めたとします。炒め方にもよりますが、こんがりとしたきつね色になった状態で計量すると250グラムでした。この場合、脱水率は約60%です。すなわち、玉ねぎに含まれる水分の6割が鍋の外に抜けていったということ。当然、味わいは濃縮されて甘みやうま味を強く感じられます。さらに70%、80%と脱水していけば、どんどん味は濃くなるのです。

 鶏肉はどうでしょうか?生の状態で500グラムある鶏肉を皮面からしっかりと焼きつけ、表面全体を色づけたら、400グラムになりました。脱水率は20%。鶏肉の味は濃縮されてよりおいしくなりました。カレーを作るプロセスで、このような「脱水による濃縮」が常に起きていると考えてください。濃縮すればするほど、味は濃くなります。だとしたら、すべての食材において濃縮を進めたくなりませんか?または、自分の作っているカレーや食べたカレーがどの程度濃縮されているか気になりませんか?

 カレーのおいしさを「濃縮の度合い」という指標で客観的に捉えようとする試みは、過去に例がないかもしれません。「玉ねぎをあめ色になるまで炒めるとカレーがおいしくなる」と長年、多くの作り手が主張し、実践してきました。受け手も「確かにその通りですね」と実践したり、実食したりすることで納得してきました。それは、濃縮の度合いに関係する話でもあります。ただ、抜け落ちていた視点があるのです。それは、「1人分あたりどのくらいの玉ねぎが使われているか」ということ。