スパイとハンターが尾行合戦?
誰も知らない水面下での静かな闘い

 公安捜査官がスパイを尾行していると、逆に相手に気づかれて尾行し返されることがある。

 ターゲットの組織も当然、公安の動きをつねに探っている。追ってくるとわかっていて、逆に尾行してきた公安捜査官を尾行し返すのは、

「こちらも、あなたたち公安の動きは事前に察知していますよ」

 という暗黙のサインだったりする。

 それをわかった上で、公安の尾行班の捜査官は、尾行した日は必ず「点検」(尾行されていないか何度かチェックすること)と「消毒」(尾行者を振り切る行動)を徹底して行う。

 ただし、「点検」と「消毒」には、しやすい場所と、しにくい場所がある。当然、人の出入りが少ない場所は、「点検」はできても「消毒」はしにくい。

JR山手線のある駅にスパイが集結?
ストーカー対策にも使える秘策

 じつは、JR大塚駅は、ひとつのプラットホームに左右から電車が入って来る駅なので、スパイがよく「点検」と「消毒」をするために使う場所である。

 JR山手線外回りの電車に乗って大塚駅で降りて、改札に向かうと見せかけて、内回りの電車が来たときにさっと飛び乗るか、外回りの電車を降りて、内回りの電車に乗ると見せかけて、また外回りの電車に乗って撒くケースもある。

 または、そのまま大塚駅では降りないのかと思いきや、扉が閉じる寸前で降りて、そのまま都電荒川線に乗って逃げるケースもある。

 しかし、公安はスパイのそのような動きを「ある場所」からチェックして見破るテクニックがある。これは私がいた尾行チームしか知らない。ほかのチームには伝承されず極秘だった。

 逆に、公安側が「点検」「消毒」によく使う場所もあるが、これも他のチームと共有されることはない。

 また別の公安チームと現場で鉢合わせすることはよくある。その際、「目を合わせてはいけない」というルールがあった。

 もちろん他のチームのメンバーとは、飲み会などの行動もいっさい禁止だ。

 あるとき「とある場所」で、他のチームとすれ違ったことがある。誰かを尾行している様子はなかったので、「点検」と「消毒」をしていたのだろう。

 もちろん、すれ違っても目すら合わさない。ただ、お互い同じ場所で「点検」と「消毒」をしていたことがわかったので、その場所は二度と「点検」と「消毒」で使わなかった。