そのような些細な接近遭遇でも、リスクがあるなら即回避する。それが公安のルールでもある。

 ちなみに、私もとくにスパイを追った日は、逆にスパイ仲間から追われる可能性もあることから、まっすぐ家には帰らず、必ず「点検」「消毒」をしてから帰っていた。

 この場所、このビルに持ち込んだら絶対に撒けるという自分が得意な場所を地区ごとに2、3か所作っておいたのだ。

 これは公安捜査員には必須のことで、一般人でもストーカーを撒く手段として使える。

スパイに「家バレ」した捜査官の悲劇
トップスター並みの警戒心が必要

 私の現役時代の先輩の公安捜査官は、ある国のスパイ組織に自宅の住所がバレてしまったことがあった。

 その後、先輩の自宅の玄関の前には、動物の死骸を置かれたり、汚物が置かれたりした。また差出人不明の手紙で「お前の娘がひどい目に遭っても知らないぞ」と脅迫の手紙が送られてきたこともあった。

 それからしばらくの間、警察が定期的に家の近所をパトロールしたり、監視カメラを玄関の前につけたりして嫌がらせはなくなったそうだが、家バレは絶対に避けなければならない。

 賃貸の場合は引っ越せばいいのだが、持ち家の場合は簡単に引っ越すことは難しい。

 私の場合は、長い期間、秘匿捜査をしたり、危険な組織のターゲットを尾行したときは、自宅にはすぐに帰らず何日かホテルに滞在して安全を確認してから自宅に戻ったこともあった。

 家バレするということは、住んでいる場所がバレただけではなく、身バレ、顔バレしたということ。それは公安の仕事の継続が難しいことを意味する。

 ある意味、公安捜査官はどんなトップスターよりも、家バレしてはいけない存在でもあるのだ。

 私は現役時代の癖が抜けず、今でも家を出るとき、帰宅するとき、まずは周囲を見回して、怪しい人物がいないか、不審な物が置かれていないかチェックしてしまう。これはもう無意識レベルだ。

 家の前に見慣れない車が止まっていないか、挙動不審な人物がうろついていないか、不審物が放置されていないか、などは公安捜査官だけでなく、一般の人達もぜひチェックする癖をつけてほしい。

 その一瞬の「おや、変だな」という違和感が犯罪を未然に防ぎ、身の安全を確保することにつながるのを知っていただきたいと思う。