ニセのトラヴェラーズ・チェックと他人のパスポートを駆使して、カメラ、テープレコーダー、宝石など、数百万円相当の買い物をしたばかりではない。1967年5月には、東京─神戸間をまたに掛け、わずか23日間で、合計24件の詐欺を働くという、破廉恥な偉業を達成。1日に6件という数字さえはじき出した。しかし最終的には、大阪で日本の警察に逮捕されている。それも、FBIに内報されたから。

 ハワード・バロンというアメリカ人ビジネスマンは、さらに巧妙な手口を思いついた。東京の〈アメリカン・クラブ〉のゼネラル・マネージャーという、おいしい要職を射止め、それをフルに活用したのだ。アメリカン・クラブといえば、裕福なアメリカ人の重役や、外交官、およびその家族を主な対象とした、最高級会員制クラブとして知られている。

 ポストに就くや否や、クラブのお目付け役や委員会のメンバーたちを、「コスト削減、リストラ」と称して、ばっさりと解雇。その裏で、クラブの敷地を、日本の共同事業体に売りさばく計画を、ひそかに推し進めた。

 しかし悪巧みが事前に発覚すると、たちまち日本を脱出し、香港へ。ここでは米軍内部の犯罪組織、〈カーキ・マフィア〉と手を組んだが、到着後まもなく、自分のオフィスで、何者かに射殺されている。理由は知られていない。

立川空軍基地は、いわば
「詐欺師の実験台」だった

 外国人野心家の登竜門といえば、立川空軍基地だ。この世界最大の米軍基地には、終戦後、1975年にアメリカ人が、サイゴンから撤退したあと、1977年に日本に返還されるまで、数千人の兵士と家族の住居のほか、各種クラブ、映画館、ボウリング場、基地売店などが軒をつらね、1つの小さな町を形成していた。

 正門前のエリアでは、アメリカ人セールスマンが、何も疑わない軍関係者に、商品を売りつけようと手ぐすねを引いていた(“ヒツジの刈り込み”と呼ぶ商戦だ)。金、銀、証券、投資信託、不動産、自動車、アメリカのゴルフ会員権、等々、米兵や軍属たちが、財布のひもを緩めたくなるような商品を、思いつく限り並べたものだ。